26声 冷めた珈琲と冷たい珈琲

2008年01月26日

年々、市街地から映画館が消えている。
その最大の要因として挙げられるのは、郊外に乱立するシネマコンプレックス人気である。
シネコンと呼ばれこの複合映画館、その多くは大型ショッピングモール内の一テナントとして営業されている。
充実した設備と広々綺麗な館内。
全席指定席の券売システムなので、座席にあぶれる事無く観賞できる。
これに、ショッピングがてら映画鑑賞が出来るとあらば人気の出ない筈が無い。

その上映システムは、基本的に一スクリーンでの上映は一作品で完全入替制。
もちろん市街地の「ナントカ座」みたいな、商店街内にあるチビ映画館の、
動員数不振作品の2・3本立て抱き合わせ上映や、
一度入場すれば複数の作品を連続して観賞できる、気が済むまで観賞制とは一線を画す。

思えば確かに、この気が済むまで観賞制と言うのは観客回転効率が悪い。
座席も指定されていないので、人気作品などは決まって立ち見が出る。
それはまさに、市井の人々の映画熱を象徴している様で、
その頃の映画館には、回転効率やら上映環境やらを度返しにした、娯楽を求める人達の混沌とした温度があった。
実際に、あの重たい扉を開けて薄暗い講堂に入ると、そこに蠢く人達から生まれる「モワッ」とした熱気を感じた。

そして、キレイサッパリとしたシネコンからその温度は感じられないのである。
下手ながらに例えてみると、アイス珈琲は冷やされる事によりホット珈琲の持つ豊かな薫りは失ったが、
それと引き換えに、爽やかな涼を得た事に似ている。
真の珈琲好きは、珈琲はホットである事を実と考えるかもしれない。
しかし、注いだ時はホットでも、一旦冷めてしまった珈琲ほど後味の悪いものは無い。
冷めた珈琲と冷たい珈琲。
どちらを取るかと問われれば、それはもちろん…。