5229声 蘇る勤労

2022年09月02日

先月から数回、県内の飲料工場の撮影をしている。広告代理店を通してそういう依頼があった時に、「僕実は群馬帰りたての時に別の飲料工場でバイトをしていて、それもあって興味あります」と答えていた。それは僕がまだ20代前半の頃のことであった。

 

不思議なことに、目にも止まらぬ速さで流れていく缶飲料やペットボトル、粉ミルクの香りが充満した配管ばかりの工場を歩くと、当時の記憶が蘇ってくる。当時はまだその先の人生に不安ばかりで、日勤夜勤が入れ替わる不規則なそのバイトの中で、僕はずっとこんな感じで働いて年老いていくんだろうな、と思っていた。そんな不安から逃げるために、1年くらいは続けたと思うが、僕はそのバイトを辞めた。

 

今撮影している工場は、働いている社員の平均年齢が若くて驚いた。僕が当時勤めていた工場のように威圧的な先輩もいないし、ルーティーンが多い工場だからこそ、みなが明るい雰囲気で働いている。高学歴の社員も多い。工場が違うからなのか、時代が変わったからなのか、働いている人たちの中に当時の僕のような顔をした人はいない。

 

夜勤、夜が明けて(僕が働いていた方の工場は窓があった)光が射す工場内で、まるで産湯を浴びた後のように湯気をまといながらわらわらと出てくるボトル飲料の光景を、今もなんとなく思い出すことができる。あと数時間で仕事が終わる、という気分もあったと思うが、その光景はなんだか美しくて、部分的に、良い思い出として残っている。