村上春樹の新刊を読んだ。
妻に先立たれた俳優、宿命的な彼女との別れを選んだ男、
裕福な暮らしをし深い恋に落ち敗れ衰弱しきって死んだ男、など
まさに「女のいない男たち」の短編集であり、
男と女は、容姿や性欲や損得や建前などよりもっと深い、
人生を揺るがすものとしての関係である、と言わんばかりの小説だった。
やれやれ・・・僕は今までそんな、人生を揺るがすほどの恋愛
とは遠い生き方をしてきたけれど、ふと思い出したことがあった。
学生が終わってわりとすぐの頃、女の子を映画に誘った。
2人できちんと会うのは初めてだった。不忍の池のあたりだったかな。
彼女は、「友達に借りてきたの」とネックレスをしていた。
「映画さ、昔の映画なんだけどすごくいいんだ。『道』って言って」と僕。
僕はとても緊張していて、特集上映の古い映画を観て、歩いて、別れた。
その後は自分の引っ越しだのなんだので、会うこともなく、
その、ただ一度東京を歩いた、というだけで、終わった。
今ふと思うのは、映画のことなんか二の次にして、
その日のために友人に借りてまでしてくれたネックレスのことを、
一度でも褒めれば良かったな、という事。見た目じゃなくて、気持ちをね。
・・・まあ、昔のそんな事を気にする男は、往々にしてもてない男であり、
人生を揺るがすどころか、木々の葉も揺れないようなか弱い話だけど。
馬鹿なんだろうね、いくつになっても。

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