昼下がりの喫茶店。
天窓からこぼれて降り注ぐ陽差しが、カップの珈琲を透かす。
隣の席の話声。
私は、薄茶色の表面に広がる光の波紋を、ぼんやりと眺めている。
日々、自動改札をすり抜ける速度で、過ぎ行く生活時間。
こんなのんびりとした時間を取るのは、中々難しい。
難しいけれども、偶には取るべきである。
目の先、テーブルの上。
小さな透明のガラス花瓶に、一輪の花。
「あれ、なんて花ですか」
「あれは、スノードロップと言う花ですよ」
「そうですか」
まさに、細い茎からこぼれ落ちそうな、雪の一滴、純白の花蕾。
珈琲を飲み終えて、席を立つ。
店を出る時に、テーブルへ目をやった。
雪の雫は、まだ、こぼれ落ちていなかった。