繁盛店の調理場はお客を気にしない。
あれは気にしないんじゃなくて本当はいちいち気になっている。
満足してるか。
うまいと思ってるか。
忙しいとそれを気にしながら気にしてないような時間になる。
料理人は料理と動きを見てもらうのが仕事なのだからそれでいい。
それがよくて料理人になろうという人も多いと思う。
動きについては、そこを意識し始めるまでには、料理を始めてから少し時間がかかるかもしれない。
いい動き、見ていて気持ちいい動き、というのがある。
ここに興味がないと料理はうまくならないので。
ところが店が暇だとぼーっと立っている時間が増える。
これも動きのうちだが、見ていて気持ちのいいでくの坊というのは、これは案外難しい。
飲めばどうにかなると思うからコップに酒を注ぐ。
どうなのかと考えながら飲む。
芸人が芸をせず場を持たす難しさに似ている。
忙しかろうが暇だろうが、お客が見ていて気持ちいいのかどうなのか。
これはつまり自分が客としてそこにいたときに気持ちいいかどうかということ。
だから要するに、一体この店は、自分は、何を気持ちいいとするのかという問いがなければ、料理人としての進歩はない。
志ん生がいいのか。
談志がいいのか。
小三治なのか。
どれも気持ちいいのだが自分が芸を志すならなりたいのはどれなのか。
そういうような話。

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