2424声 美味い酒不味い酒

2015年05月29日

早くも梅雨を思わせる、陰鬱な曇天の一日であった。

梅雨に吹く南風のことで、「黒南風(くろはえ)」と言う季題がある。

今日はまさに黒南風らしい、湿った風が路地をのっそりと吹き抜けていた。

梅雨は何が嫌って、麦酒がうまくないのが、嫌である。

湿度と麦酒の味との関係を明確に説明し得ないが、

とにかく、美味くないのである。

では、どんな状況下で飲む麦酒が美味いのか。

「朝イチ、歯を磨く前に飲む麦酒が美味い」

と言っていたのは、タモリである。

「歯磨き前」と言うところに、ただならぬ説得力がある。

中島らも作品の中にも、いくつか美味しそうな麦酒の描写がある。

エッセイの中にある、無職時代、朝起きてカーテンの隙間から、

通勤するサラリーマンの列を眺めつつ飲む麦酒。

小説の中にある、依存症治療で入院中、

病院を抜け出して行った蕎麦屋で飲む瓶麦酒。

中島らも作品の麦酒は状況がいささか過激であるが、

この二つの例を見ると、やはり不道徳な環境下で飲む。

と言うことが、美味しい麦酒へありつくキーポイントのようである。

しかし、こうなるともう麦酒に限らぬが、

一般的によく言う「昼の麦酒は美味い」 と言うのも、同じことであろう。

それが酒と言うのものの、真理のひとつかどうかは分からぬが、

前述の中島らもの小説の中、アルコール依存症治療のため、 これから入院しようと言う直前。

もうこれで飲み納めと言うことで、自動販売機でワンカップを買って飲む描写がある。

しかも、2本。

この描写は、悲しいくらい、切実に、不味そうな酒である。