573声 3番目の湯客

2009年07月26日

開店時刻の午後3時。
店主が軒先に暖簾を掛けるのとすれ違いで、硝子戸を開けた。
しかし、浴室には既に二人、常連と思しきおやっさんが、
カランの前に腰掛けて談笑している。
「フライングですよ」
と、胸中にてツッコミを入れ、3人目の一番湯客となる。
日曜日の昼間から、銭湯で一番風呂を浴びて、瓶牛乳を飲んでいる。
なんてのは、いささか道楽者の感があるが、入浴料330円、瓶牛乳90円。
計420円の、ささやかな道楽である。
しかも、チョイと社会人風の言い方をすれば、
その費用対効果として得られる満足感は、非常に大きい。
酷暑の最中、脱衣場で一向に引かない汗を拭いながら、瓶牛乳を飲んでいた。
番台の店主と、先の常連さんの話題は、高校野球で持ち切り。
此処は桐生。
野球の盛んな土地であるから、野球談議にも熱が入っている。
野球に疎い私は、話を振られても、曖昧な返事しか返せない。
そして、本日ばかりは私も、道楽で銭湯へ来たのでは無かった。
話題を転じ、店主に私の素情(と言っても、大して面白くも無い素情なのだが)述べる。
そして、県内の銭湯を全て巡り終えた事、その他諸事を述べ、しばしの談話。
会話中、7月に高崎市では2軒の銭湯が、廃業と休業になった旨を伺い、
絶句してしまった。
1軒は確認していたのだが、もう1軒あったとは、それにしても、ひと月に2軒である。
ふと、扇風機に当たりながら、瓶牛乳を飲んでいるこの時間が、
とても貴重な時間に思えてきた。