3779声 遺言

2017年03月13日

『遺言~原発さえなければ~』というドキュメンタリー映画を観た。2014年の作品で、編集には僕の映画学校での担任であった安岡卓治氏が加わっている。2011年3月12日から3年の月日をかけて福島県飯館村を中心に、そこで惑い、そこを離れ、そこに留まる酪農家、農家を撮り続けた作品だ。

 

山あいの中之条町に住んでいるので、農家の知り合いも増えた。僕の親父世代の人たちは特に皆「屈強な男」という印象を受ける。自分の力一つで仕事を続ける姿勢がそうさせるのか、3食しっかり食べるご飯がそうさせるのか。対峙すると自分の心身の弱さを感じずにはいられない。

 

この作品の中にも、僕が知ったような顏の屈強な男たちが出てくる。けれど。放射線量が高く、一頭一頭家族のように育ててきた乳牛を飼育することが不可能となり、屠畜のために大きなトラックに乗せなければいけない場面。その屈強な男が、目にいっぱいの涙を溜めている。「見てらんねぇや」とひと時席を外す。タイトルにもあるように、酪農を辞めざるを得なかった直後に、自らの命を絶った方もいた(実際、震災による直接死よりも関連死の方が上回っている)。ああこの震災や原発事故は、屈強な男たちの心さえもズタボロにし、先祖から続くその地との結びつきを断絶させたんだな、と再確認せずにはいられない。

 

このドキュメンタリーは3時間45分にもおよぶ。端的なニュースでもなく、回想録でもなく、3月11日直後からのその場所での時間・暮らしを丁寧に映像に納めている。そしてラスト、「これが復興です」などと根拠のない希望は口に出すのも憚られるけど、福島の地で再び酪農を始めるという屈強な男たちの目には、強い意志が戻っていた。そして、この作品を観て「もし僕の近くで同じようなことが起きたなら、僕が知る屈強な男たちもまた、自らの手で自らの目に強い意志を取り戻すのだろうな」と思った。