梅雨らしい天気が続いている。
こうなると、巷の不快指数も上昇の一途をたどり、
満員電車内や職場でも、苛々の気配が充満してくる。
今日も、帰りがけに机で聞きたい用事があり、
駅周辺の喫茶店を回ったが、雨模様のためか、
どこも満席であった。
手っ取り早く机と静かな空間にありつきたかったので、
喫茶店の脇のネットカフェに入ることにした。
都市部のネットカフェの多くがそうであるように、
席は狭小である。
PCのキーボードをモニターの横に立てかけねば、
用紙に文字を書くことが困難なほどである。
当然ながら、ネットカフェの店内は静かである。
時折、カップラーメンの匂いなどが隣席から漂ってくる
ときには辟易するが、それでも、静寂は快適である。
突然それを打ち砕いたのが、冒頭で述べた苛々の気配である。
通路を挟んだ後ろの席から、「チッ」という舌打ちに始まり、
「ドスッ」と机をたたく音、さらには「バキッ」とキーボードや、
おそらくPC本体をたたく音へと、席の中の気配はエスカレートしていく。
その都度、「ううっ」や「ああっ」など、中年男性と思しき、
苛立ちの声がもれている。
なんだか不気味に様相であったため、そそくさと退席し、
レジで利用料金を支払っていると、ずんずんずんという具合に、
こめかみにやや血管の浮き出た四十がらみの小柄な男性が、
こちらへ向かって来た。
レジのお兄さんが「ありがとうございました」と、
私におつりを渡すや否や、その血管浮き出し男は、「ダ」といった。
続けて、「ダ、ダ、ダウンロードデキナイ」と言い切り。
唖然とするレジのお兄さんを見据え、「ミ、テ、ク、レ」と、
絞りだすようにいった。
その後、二人は通路の奥の席へと消えて行った。
梅雨の暗さと相まって、振り返る店内の入り口が魔窟めいて見えた。