3886声 魔窟めく

2017年06月28日

梅雨らしい天気が続いている。
こうなると、巷の不快指数も上昇の一途をたどり、
満員電車内や職場でも、苛々の気配が充満してくる。
今日も、帰りがけに机で聞きたい用事があり、
駅周辺の喫茶店を回ったが、雨模様のためか、
どこも満席であった。
 
手っ取り早く机と静かな空間にありつきたかったので、
喫茶店の脇のネットカフェに入ることにした。
都市部のネットカフェの多くがそうであるように、
席は狭小である。
PCのキーボードをモニターの横に立てかけねば、
用紙に文字を書くことが困難なほどである。
当然ながら、ネットカフェの店内は静かである。
時折、カップラーメンの匂いなどが隣席から漂ってくる
ときには辟易するが、それでも、静寂は快適である。
 
突然それを打ち砕いたのが、冒頭で述べた苛々の気配である。
通路を挟んだ後ろの席から、「チッ」という舌打ちに始まり、
「ドスッ」と机をたたく音、さらには「バキッ」とキーボードや、
おそらくPC本体をたたく音へと、席の中の気配はエスカレートしていく。
その都度、「ううっ」や「ああっ」など、中年男性と思しき、
苛立ちの声がもれている。
なんだか不気味に様相であったため、そそくさと退席し、
レジで利用料金を支払っていると、ずんずんずんという具合に、
こめかみにやや血管の浮き出た四十がらみの小柄な男性が、
こちらへ向かって来た。
レジのお兄さんが「ありがとうございました」と、
私におつりを渡すや否や、その血管浮き出し男は、「ダ」といった。
続けて、「ダ、ダ、ダウンロードデキナイ」と言い切り。
唖然とするレジのお兄さんを見据え、「ミ、テ、ク、レ」と、
絞りだすようにいった。
その後、二人は通路の奥の席へと消えて行った。
梅雨の暗さと相まって、振り返る店内の入り口が魔窟めいて見えた。