3647声 猿飼主人

2017年11月06日

先月末、葬儀のお手伝いをした。僕が小学生のころに校長先生だった故人は御歳90歳。多くの方に見送られての式だった。こういう席への参加も増えてきたけれど、毎回何か新たに知ることがあるもので・・

 

小学生の頃、近くに猿を飼っている家があって、当時は「猿だ猿だ、こえーこえー」とか、からかう対象でしかなかったのだけれど。

 

そこの家の奥さんと法宴で隣になりふと「昔、猿飼ってましたよね?」と聞いてみた。

 

「旦那は塗装屋だったでしょう。仕事の支払いで足りない部分は猿で勘弁してくれって人がいて、旦那は人がいいもんだから、いいよって引き取ったのよ」と奥さん。

 

予想外の答えだった。実に昔の中之条ならではの話。ビールを口に運び、しばらく口ごもる。

 

猿はある日突然、亡くなった。からかう対象だったとはいえ、そこに確かにあった生き物の存在がふっと消えるのは、不思議な感覚だったことを思い出した。

 

「亡くなった時は寂しかったですか?」また奥さんに聞いた。

 

「そうね。私には重たいものを持たせたことが一度もなかったのよ。優しかったの」と奥さん。猿のことを聞いたつもりが、亡くなった旦那さんの話しになって返ってきた。

 

でも、その会話の食い違いが良かった。随分昔に亡くなった旦那さんへの思いが、彼女の中ではすぐに差出せるほど近くにあるという事に、なんだか胸が熱くなった。

 

残るものの大半は、思い出なのだろうか。