4344声 16)やさしさ

2020年03月16日

やさしさ、は難しい。若い時の人へ対するやさしさは、自分なりの防御方法だった。責められたくないから、優しく接する。それが見破られて、「オメー何考えてるかわからねー」と逆に攻撃されたこともあった。今も「八方美人だね」と言われることがある。この年になれば誰かに嫌われたって別にいいと思っているが、波風立てないように生きてきたことは確かだろう。

 

結婚もしていないが、僕が親父代わりみたいな気持ちで接している、Aという人物がいる。Aは、ずっとつらい生き方をしてきた。お互いが若い頃は、Aの強迫神経症の問答で夜が明けるまで言い合いを続けたこともある。年をとるにつれてそういった症状は軽くなっていったが、人との付き合いに疲れ、Aは酒を多く飲むようになった。数年前からAとは家も離れていたので、時たま会って夕飯をおごり「最近どう?」と話したり、A自身英語が堪能だったので、海外へ行くためのちょっとした応援をしたりした。そんな中でも、僕からAに酒を辞めるように強く言うことはなかった。言わないことがやさしさだ、などとは思っていなかったが、本人も断酒会に行くなどして頑張っていたので、1人くらいは「辛いよな」と聞き手に回るだけの人間がいても良いのではないかと思っていた。けれど今年、Aは飲酒後に大怪我を追ってしまった。どう接すれば良かったのか、僕はこれからずっと後悔していくことだろう。

 

一方的なやさしさは、相手の何かを失わさせる。Aに対してそれは、真に立ち直る機会だったのかもしれない。喧嘩するほど仲が良い、というが、僕は親密な人とも喧嘩をすることがほぼない。それは、一方的な、やさしさ(と僕が思い込んでいるもの)で相手の怒りの出先を失くしてしまっていたのかもしれない・・と、そんな事何度かあったなと、自分でも気づいてはいる。

 

Aは以前「私が今まで生きてこられたのは、あなたのおかげです」と言ってくれた。それは、僕がいうのもなんだが、本心だと思う。だから僕は、今さら性格変わらんなーという諦めの一方でちゃっかり、変わる必要はないのかも、と思ってもいる。