1037声 秋の思いの三味の音

2010年11月03日

今日、仕事で訪れた磯部温泉を、しばしそぞろ歩いた。
閑散とした温泉街には廃屋なども目立ち、秋風が身に沁みた。
ふらふらと歩を進めていると、往来脇。
名物である磯辺煎餅の店から、煎餅を焼く香ばしい匂い。
無意識に物欲しそうな目を向けてしまったのか、焼いている御主人。
硝子窓を開けて、「はい」って、焼き立ての磯辺煎餅を数枚くれた。
特有の風味と軽い歯触りが相まって、美味い。

未だ温かい煎餅を、ぱりぱりやりつつ、うら寂しい路地へ入る。
道すがら目に止まった一軒の廃屋。
蔦紅葉の這う壁にかけている、表札。
風雨に晒され、墨の筆文字がかすれて消えかかっていたが、
何とか、読む事が出来た。

「義太夫稽古場」
と、書いてある。
今は昔、ここで、磯部温泉の芸者さんたちに、
義太夫節を指南していたのだろう。
義太夫三味線の音色に合わせて、義太夫節の声音が聞こえてくる。
なんてオツな夜が、磯部温泉に、確かにあった証であろう。
今その光景は、秋の思いの中だけにある。
そこから踵を返して、温泉街へと戻った。

【天候】
終日、雲多くも秋晴れの一日。
寒さも、近日はしばし緩んでいる。