6051声 夜の爆音

2024年12月31日

朝からおせちの盛り付け。今年は金団に渋皮栗を合わせた。渋皮栗はアクを抜いて柔らかくするのに重曹を使うのが定番だが重曹は使わずに丸2日下煮した。渋皮の風味が味わえる仕上がりである。金団はいつものレモン仕立て。さつま芋も品種がいろいろあるが金団には紅はるかがいい。二品目は鮑の肝和え。鮑はこの夏ずっと出していたので問題ない。一度にたくさん炊くと煮汁の味が深くなる。榛名のジャンボ梨を丸く小さくくり抜いて甘酢に漬けて鮑に添えた。三品目は海老おぼろと鰯の酢漬け。芝海老を茹でて裏ごして酒と砂糖を加えた汁でポロポロになるまで弱火で炒る。これは普段やらないから手間取った。煮詰める料理は煮る前の水分から仕上がりの水分になるまでにかかる加熱時間をきちんとイメージできていないと必要以上に時間を食う。おぼろは細巻きで使えるので通常営業でも常備していきたい。四品目は本鮪の醤油漬けと干し椎茸の旨煮。少し前に仕入れた鮪がとにかくよかったのでそれに尽きる。生のままだが色も落ちずに届いていると思う。五品目はあん肝のテリーヌ。これはこの冬の方の一番人気の料理。あん肝は酸化を嫌うので容器に詰めたあとすぐに上から柚子味噌で蓋をした。あん肝には小さく刻んだいちぢくを混ぜ、柚子味噌の上にはけしの実を振りかけた。互いのプチプチが口の中で重なる。六品目は太刀魚の昆布〆と鮎の有馬煮、金柑のオレンジワイン煮、隠元お浸し。金柑がよくできた。甘酢で炊いたあと1週間くらい干してからワインを加えて炊き直した。グミのような食感に仕上がっている。七品目はいくらの醤油漬けと白いかの醤油漬け。秋口の新いくらを少しずつ仕込んでためておいた。いかを下にいくらを上に。いくらの旨味をまとったいかになっている。最後八品目は唐墨、白子の求肥、海苔寒天。今年の唐墨は半生で。戻す酒は紹興酒を使った。2週間毎日手当てをしていい酒の肴になったと思う。唐墨には焼き餅をよく合わせるが焼き餅ではなく求肥にした。鱈の白子をたっぷり練り込んだ白子求肥である。今回のちょっとした目玉料理。何個も食べられてしまう。ということで無事に盛り付け、お客様へのお渡しまで終わった。明日からは1月3日まで正月営業となる。食材がそろっているのでいけると思う。明日からの料理を考える前にちょっと一息つく。そういえば、寒くなってパトカーと救急車のサイレンが頻繁に聞こえてくるようになった。今年はやけに多いなと感じる。方やもしかしたら死を伴うような状況の人間と方や仕事に没頭して生きる人間とがこんな近くで交錯している。そんなことを夜布団の中で思っていると、今度は暴走族のバイクの音がこれも毎夜のように聞こえてくる。しかも聞こえるのは一台分である。これが夏ならば「まだ他者を知らないうるさいだけの若者」で終わりだが、このところの夜の気温は0℃に近い。寒い中どうにもならない自我と自意識を発散させているのだろう。大事な睡眠を邪魔されてまったく迷惑に違いないが、もしかしたらこの子は街全体に気合を入れに来てるんじゃないかとふと思った。寒夜に爆音を掻き鳴らすくらいの気持ちで料理を作っていると言ったら言い過ぎか。あ~、温かいところでゆっくりしたい!