色々に大変な月ではあったが、印象に残ったことを1つ書いて終わりにする。
目が見えなくなっった彫刻家・三輪途道さんと奈良の東大寺に行った際、応対してくださった東大寺の別当・佐川普文さんが三輪さんと話すのを聞いていて、聞かずにいられないことがあった(それは個人としてというよりは、ドキュメンタリーを作っている者として、かもしれないが)。
目が見えていた頃には東大寺からの依頼で仏像も彫った三輪さん。目が見えなくなった今、作りたい仏像がありその許可をいただくための訪問でもあった。それを快諾する佐川さん。
2人の会話を撮影していて、「佐川さんはずっと、三輪さんの目が今は見えていないことを気にされていないようですが、どう思われていますか?」と僕から聞いてしまった。三輪さんに対しては、そういう質問を僕がしても彼女は何ら嫌がらない、という信頼関係を持っている。
「いや、何ら変わらないんじゃないんですか」
佐川さんはさらっとそんなことを言われた。そう思われているから普通に話しているんだろうなとは思っていたが、その言葉は<芯を食った言葉>のように思えた。
帰りの車の中で三輪さんが「岡安くんが質問してくれて、佐川さんのあの一言がとても嬉しかった」と言ってくれた。目が見えなくなり、それまでの超絶的な木工作品が作れなくなることの残念さや、身の周りを心配して大変ね、お気の毒にね、という周囲からの言葉は多々聞いていたが、自分としてはそうではなかったと。だから、色々を見抜いている佐川さんが「三輪さんは目が見えなくても変わらない」と言ってくれたことが嬉しいと。そんな話だった。
日々の忙しさや、幾つになっても変われない自分にうんざりもするが、誰よりも<良い瞬間に立ち会える人生>だという自信はある。時に停滞し続け、生き続けたい。

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