620声 露天風呂の玉手箱 前編

2009年09月11日

滴り落ちる汗も拭わずに、焦点の合わぬ目でぼんやりと宙を見つめている。
ここは、日帰り温泉のサウナ。
隣から聞こえて来るのは、大学生と思しき男二人の会話。
「じゃあ、一年のアイツはどう」
「あの金髪のヤツかい」
「そうそう、小柄の」
「アイツは一寸、ギャル過ぎるな」
「そうかなぁ」
若い男二人。
サウナでの、話題なんてのは、いつの世も同じだ。
「俺さぁ、この前の連休、サチとディズニー行って来たんだけど」
「えっ、俺、年末に行ったんだけど、ディズニーにサチと」
「ウソ、マジで」
「マジマジ」
「・・・・」
「あいつ、チュロス、食った」
「うん、あいつチュロス食ってたよ」
「チュロス好きだよな、あいつ」
「うん、チュロス好きだよ、あいつ」
ひょんな話題から、気まずい空気が室内に流れる。
サウナの熱さか、女心の移り気を思ってか、二人に苦悶の表情が浮かぶ。
「ユミいるじゃん、隣のクラスに」
「あー、いるねぇ」
「アイツは、どう」
「どうって、アイツはヤバいだろ」
「だろ、アイツはヤバいよな、マジで」
「今日のアイツ、特にヤバかったな」
「ヤバかったなぁ、今日のアイツは」
どうやら、もう寝ないとヤバそうなので、この続きはまた明日。