621声 露天風呂の玉手箱 後編

2009年09月12日

昨日の続き
ヤバい、と言うのは好意的にヤバいらしい。
そして、話を聞いていれば、と言うか聞こえ来るので聞いているのだが、
この大学生らは、何やらアウトドアサークルの一団らしい。
そして今日、群馬県の何処かでキャンプをした帰りに、この日帰り温泉に寄ったのだ。
サウナから出て、露天風呂に浸かりながら、
こんなにも軽薄な会話をしていたのだろうかと、若き日の自分と照らし合わせてみる。
すると、露天風呂。
女湯の方から、何やらうら若き乙女の、
などと、こんな俗な表現をしている自分にいささか幻滅するが、
若い女子の艶のある声が漏れ聞こえて来る。
あの声はもしや、先程のサチでは無いか。
いや、良く聞けばユミと言う線もあるな。
などと、声音から想像、半ば妄想しつつ、気付けば心地良くうとうとしていた。
竜宮城。
女子大生たちと絢爛豪華な饗宴をしている、私。
三味線を爪弾く乙姫様からお酌を貰い、勢揃いした天女を見渡せば、
チュロスを食べているサチと妖艶なユミも居る。
夢見心地で、もう一杯。
飲もうとしたら、
「ウ゛ェッホン、カッ、カッ、カーッ、トッ」
露天風呂の排水溝に、隣の親父が痰吐く声。
夢見心地の競演から引きずり戻され、非常に不快な目覚め。
艶のある若い声も何処かへ消え失せ、おばちゃんのガラガラ声が空しく響いている。
露天風呂の岩陰に、蓋の開いた玉手箱でもあったのかしら。