明日の俳句ingの為に、本日より上野村に入る予定である。
俳句ingは明日の朝だから、明日出発すれば十分間に合うのだが、
本日夜に現地で宴席がある。
なので当日、集合時間に遅れる心配は無い。
「山の懐に抱かれる」
と言う形容が相応しく、山の中にある上野村。
過去に2回ほど宿泊した事があるが、夜が心地好い。
兎も角、辺りは森閑としていて、虫の声に紛れて、時折、梟などが鳴いている。
露天風呂に入りながら、夜霧に浮かぶ山を眺めていると、
山から鵺の声でも聞こえて来そうである。
そんな風景が詩情を誘わない訳は無い。
自然と筆も進むと言うものだ。
そう言えば、昔、上野村に在るコテージの管理人から聞いた話がある。
それは、夏も過ぎた初秋の頃。
コテージの予約が入った。
宿泊者は、若い女性独りきり。
不審に思ったのだが、断る理由も無く、了承。
その女性は、コテージに来て、日がな一日、
散歩したり管理棟に在るレストランで食事をしたりし、後はコテージに籠りっぱなし。
時々、思いつめた様な顔をして、コテージ横に掛る吊り橋から下を覗いている。
「こりゃ、自殺志願者なのかな」
と、管理人は密かに思い抱いだいた。
しかし、若い女性客なので、無暗に近づいても悪いと思い、一定の距離を置いていた。
毎日、気を揉みながら、付かず離れず、その人の動向を気にしていた。
連泊に次ぐ連泊。
滞在1週間が経とうとしていた或る日。
その女性は、レストランで夕食を食べながら、「明日帰る」と言う旨を管理人に伝えた。
管理人は、思い切って聞いてみた。
「随分ゆっくりされていたみたいですが、毎日、何をなさって過ごしていたんですか」
すると、その女性は笑みを浮かべて、
「小説を書いていました、お陰様で、滞っていたものがやっと完成しました」
やはり、天然風景は詩情や想像を豊かにし、自然と筆も進むのものなのだ。