628声 自然の中で筆とる日

2009年09月19日

明日の俳句ingの為に、本日より上野村に入る予定である。
俳句ingは明日の朝だから、明日出発すれば十分間に合うのだが、
本日夜に現地で宴席がある。
なので当日、集合時間に遅れる心配は無い。
「山の懐に抱かれる」
と言う形容が相応しく、山の中にある上野村。
過去に2回ほど宿泊した事があるが、夜が心地好い。
兎も角、辺りは森閑としていて、虫の声に紛れて、時折、梟などが鳴いている。
露天風呂に入りながら、夜霧に浮かぶ山を眺めていると、
山から鵺の声でも聞こえて来そうである。
そんな風景が詩情を誘わない訳は無い。
自然と筆も進むと言うものだ。
そう言えば、昔、上野村に在るコテージの管理人から聞いた話がある。
それは、夏も過ぎた初秋の頃。
コテージの予約が入った。
宿泊者は、若い女性独りきり。
不審に思ったのだが、断る理由も無く、了承。
その女性は、コテージに来て、日がな一日、
散歩したり管理棟に在るレストランで食事をしたりし、後はコテージに籠りっぱなし。
時々、思いつめた様な顔をして、コテージ横に掛る吊り橋から下を覗いている。
「こりゃ、自殺志願者なのかな」
と、管理人は密かに思い抱いだいた。
しかし、若い女性客なので、無暗に近づいても悪いと思い、一定の距離を置いていた。
毎日、気を揉みながら、付かず離れず、その人の動向を気にしていた。
連泊に次ぐ連泊。
滞在1週間が経とうとしていた或る日。
その女性は、レストランで夕食を食べながら、「明日帰る」と言う旨を管理人に伝えた。
管理人は、思い切って聞いてみた。
「随分ゆっくりされていたみたいですが、毎日、何をなさって過ごしていたんですか」
すると、その女性は笑みを浮かべて、
「小説を書いていました、お陰様で、滞っていたものがやっと完成しました」
やはり、天然風景は詩情や想像を豊かにし、自然と筆も進むのものなのだ。