678声 猫と夜会う

2009年11月08日

「おっ、やってるね。いやしかし、何だいその足取りは」
「うっさい」
「お前さんは大体、運動不足なんだよ、昨日はどうしたんだい」
「昨晩は飲んでたから、走って無い」
「ほら見ろ。だからお前さんは駄目だってんだよ、しっかりやんなよ」
「昨日の分まで走りゃ良いんだろ、まったく」
「あらら、未だ2周目だってぇのに、もう息があがってるじゃないか」
「今日は、たまたま、調子が、悪いんだ、よ」
「ほらほら、腕が振れてないよ」
「そうやって、四六時中地べたに這いつくばってるあんた等に、
マラソンの大変さが分かってたまるか」
「随分と言ってくれるじゃないか。あたし等だってねぇ、夜ぴぃて走る事があるんだよ」
「へぇーそんな姿、見た事無いね。日向ぼっこのし過ぎで、夢でもみたんじゃないの」
「そりゃ、御前さんは見た事無いに決まってるよ。昔っから、
猫は人間に死に目を見せない為に、御前さん等が知らない様な、
そりゃあ遠い所まで走って行くんだからね」
週に何度か、自宅裏の田圃を夜、走っている。
その時に、出くわすのが、どこかの飼い猫なのだろうが、
鼻筋の綺麗に通った賢そうな白猫。
闇夜に映える白毛は、そこはかとなく気品が漂っている。
首を落として、上目使いに、横を走り去って行く私を覗き見ている様が、
いかにも物申したそうなのである。
おそらく、雌猫だと推察するが、いつも私と目が合う。
いつも、と言う事は、私が走り始めてから、夜に良く出くわすのだ。
目が合った瞬間、お互いに「ふん」と言う、種族を超えた意地の張り合いをしている。
今夜も私は猫と会う。