そわそわそわそわ。
終始、落ち着かない。
私が席へ着いて、お茶を運んでくれるおばちゃんが、である。
今日の昼過ぎ、行きつけの食堂の暖簾をくぐった。
いつもの席へ座って、気付いた。
店内の空気感が、普段と違う。
いつもの駘蕩とした雰囲気でなく、その場、点在して座っている客が醸し出す、
緊張感を帯びて、張り詰めている。
小気味良く動いているおばちゃんも、今日ばかりは、心此処に非ず。
チラチラと、視線を送るその先には、ブラウン管テレビ。
映っている映像は、フィギュアスケート女子。
そうかそうかと、合点。
今日は、バンクーバー五輪、女子のフリーの決勝である。
今から、注目の日本人選手が、前回の2006年トリノ五輪において、
金メダルを獲得した荒川静香に続いて、メダルが取れるかどうかと言う天王山。
なので、皆、魂がテレビに吸い取られてしまったかの如く、夢中。
「あっ、真央ちゃん真央ちゃん」
って、店のおばちゃんは浅田真央ファンらしい。
あそこの、ラーメンの麺を箸で摘み上げたまま、固まっているおやっさんは、
どうやら、安藤美姫ファン。
その後ろで、チャーハンをもぐもぐやっている兄ちゃんは、キム・ヨナファンと見た。
店を辞して、夕方。
私はPCの前、ネットニュースで結果を知った。
「キムヨナ金、浅田が銀、安藤5位で鈴木が8位」
やはりスポーツ観戦は、一つのスクリーンを大勢で観るに限る。
空気感から伝わる緊張感。
手に汗握る状況で観戦してこそ、楽しみを得られる。
観ている人たちが、醸成する空気。
市井の中で、その空気感を感じれる場所。
それは、劇場や映画館などの映像や音響設備が整った場所だけでなく、
食堂のテレビだって、大いに楽しめるのだ。