806声 体感温度

2010年03月16日

丁度、近くに所要があったので、「届けます」と返事をして、電話を切った。
電話の主は、高崎市内の方。
本、購入の連絡を頂いたのだ。
そして翌日、本を一冊携えて、家を出た。
届け先は、薬屋さんとの事だったが、なるほど、旧市街の往来を通ると、直ぐ分かった。
柳の木なんかが植わっている、旧市街の往来と言えばやはり、
八百屋に肉屋、本屋に薬局と言う個人商店が軒を連ねていないと、風情が出ない。
そう言えば、薬局に足を踏み入れるのは何年ぶりだろうと、思い起こしながら、
入口の自動硝子戸の前に立った。
買ってくれた御主人は、とても気さくな方で、やはり「風呂好き」だと言う。
取り分け、「銭湯」に対する並々ならぬ想いが、話の端々から感じ取れる。
それもそうだ、ご主人の世代で言えば、育った時代に、高崎市内だけでも、
10軒、いやおそらく20軒以上の銭湯がひしめき合い、日々賑わっていた時分だろう。
レジの横に腰掛け、頁を捲るご主人の目に、懐古的な色が映っていた。
ご主人のおっしゃった言葉で、印象的なだったのが、ひとつ。
「昔、あそこにあった銭湯の倅と同級生でね、よく、入りに行ったんですよ」
やはり、口述で聞く文化史には、温度がある。