908声 酒徒の週末

2010年06月26日

近頃、大いに盛っているのは、郊外に在る大型の居酒屋チェーンである。
週末の夕食時ともなれば、そのいささか収容数過多と思われる大型の駐車場に、
車が鮨詰め状態。
当然、店内も満席となり、針の穴を通す様に、苦労して駐車場の隅に駐車し、
いざ暖簾をくぐって見れば、待合室には夥しい数の待ち客。
ほうほうの体で引き揚げて行く客も、一組二組ばかりではない。
その客筋は、老若男女、大いに多様である。
徳利の酒を差しつ差されつやっている、老夫婦。
ししおどしの如く、ひたすら喉に麦酒を流し込んでいる、勤め帰りの背広連。
フルーツパフェにカシスオレンジ、食物も彩色なら衣装も彩色。
若い女性客は、話し声まで鮮やかな黄色。
食事が終わって、大人の長話にすっかり飽きている子供等が、店内で縦横無尽に鬼ごっこ。
それらの客が、坩堝の中で熔融する事なく混ざり合っている。
混然とはしているが、一体になっていない。
そこに生ずるのは、不協和音。
それでも、客の足を向かわしめるのだから、経営の創意工夫に気を使い、
そして何より、接客に気を使っているのだろう。
反面、市街に在る小さな飲み屋。
週末の夜と言うのに、暖簾を揺らすのは、湿った夜風のみと言う状況。
前者と違い、店に来る客筋は大半が酒徒である。
だから、落ち着いて酒と向き合う事が出来る。
こと酒を飲む事に関しては、これほど理にかなった店は無いと思う。
しかし皮肉にも、巷の酒徒の足は、こう言う店に向かないようである。