971声 蝉の唄声

2010年08月28日

雨上がりの夜半。
クーラーを切って、窓を開けると、網戸。
雨宿りでもしていたのか、蛾や浮塵子のような羽虫が、
無数にしがみ付いていた。
中に紛れて、丸々太った蝉が、一匹。
さして気にも止めずに、翌朝。
寝床から網戸を眺めると、羽虫連。
綺麗さっぱり、見事に一匹も居ない。
蝉の奴も、近所の大樹を目指し、飛び立ったようである。
蝉の一生も、そろそろ最後のひと踏ん張り。
と言った、時節。
蝉の一生を思うと、つくづく、芸術家肌の生き方だと思う。
7、8年も土の中にうずくまっていて、漸く、地上に姿を見せる。
そして、孵化したかと思うと、地上ではせいぜい1月くらいしか生きていない。
その1月に、配偶と言う命題に挑むのである。
1月と言う短い興業期間の地上舞台に出演する為に、
8年もの下積み期間を要するのである。
否、下積みと言える活動はしていないから、只単に、
短い人生の時間を浪費しているだけかも知れない。
地下での膨大な時間の浪費こそが、あの特色のある力強い鳴き声となって、
地上に響き渡らせる。
その鳴き声は、地上に羽を伸ばせた歓喜の唄に聞こえ、時に、
自らの悲しい宿命に対する、悲哀の唄にも聞こえる。