980声 秋祭りの八木節

2010年09月06日

時折、紙コップの中に飛び込んでは溺れている羽虫を、
箸で掬い上げながら麦酒を飲んでいた。
山間の町にはすっかり夜の帳が下りたのだが、今日ばかりは、
往来が賑やかにさんざめいている。
遠くで太鼓の音が鳴るたび、僅かに、骨が震えているのが分かる。
目の前のステージでは、地元の、昔お嬢さんだった方々が、
情熱的なフラダンスを踊っている。
麦酒を飲み干して、斜向かいの席に眼をやると、
地元から来たと思しきおじいちゃん。
コカコーラ片手に、瞬きもせず魅入っておられた。
昨日行って来た、中之条町の「伊勢町祇園祭」は、会場である商店街に、
とても駘蕩とした雰囲気が流れていた。
商店街の続く直線の往来を、歩行者天国にして会場を作っている。
それ故に、来場者はその往来の一筋を行ったり来たりする訳だが、
城下町の祭などと違って、単純明快。
道案内が、かえって分かり易くもある。
祭りの町を流れるこの駘蕩とした雰囲気を作っているのは、やはり、
山間の穏やかな町に住み暮らす人たち。
そう言う所に来ると、流石の八木節も、毒気を抜かれた様な節回しになる。
踊り手が皆、花笠を持って踊る。
一緒に行ったほのじ氏は、この駘蕩とした雰囲気が性に合うらしく、
終始穏やかな表情で眺めていた。
この土地で「博徒忠治の生い立ちこそはぁ〜♪」なんて、巻き舌で歌い上げても、
しっくりこない。
やはり、この土地には、この土地の八木節が息づいている。
そんな事を考えつつ、最後の梯子の店を飛び出し、
中之条駅21:00発の終電に飛び込んで、帰路に着いた。