623声 港から民宿まで 後編

2009年09月14日

昨日の続き。
では、インターネット普及以前はどうだったか。
懇意の宿がある人、旅行雑誌できっちり事前計画を立てる人などは事前予約。
それ以外の人は、現地調達である。
この現地調達人口が、多くを占めていたと記憶している。
子供時分の家族旅行。
宿を決めずに出発するお父さんってのが、結構いた。
私の親父もその類で、日本海に浮かぶ、名前も聞いた事が無い様な、
得体の知れない小島に行くってのに、事前予約をしないで出発した。
船が港に着いてから、島役場の出先機関かなんかの観光案内所で尋ねるのだ。
「今、島に着いたんですが、今日、宿泊できるところ、どこか紹介して下さい」
ってな塩梅。
そうすると、係りの人が当てずっぽうにに電話して、予約を取り付けてくれる。
暫くすると、軽自動車に乗った民宿の親父が港に迎えに来て、一家揃って、
荷台に乗っかって民宿まで向かう。
ガタゴト揺れる荷台にしがみ付き、「とんでもない所に来てしまった」と思っていた。
すると、後ろから我が家族の乗るオンボロ軽トラを追い越して行く、一台の送迎バス。
どうやら、島で唯一の高級ホテルの送迎バスらしい。
すれ違い様、車窓に映る、自分と同年配と思しき可愛い少女と目が合った。
向こうはクーラーの効いたバスで、高級ホテルへ向かう。
こっちは、喘息の如きエンジン音の軽トラの荷台で、民宿へ向かう。
あの夏、あの島、あの時に痛感した胸の痛みと共に、
(これ比喩表現ではなく、肉体的な痛みを伴って)忘れえぬ思い出の一場面となっている。
もっとも、私の親父が事前予約をしたところで、結局は同じ民宿に泊まったと思う。
そして、その民宿も、行って見るとなかなか良かったんだ。