861声 ささやかな支援者

2010年05月10日

「次回作は、まだかい」
それまで溜まっていたものが、一気に押し出されたかの様な、
圧の強い声が、私に刺さる。
ラーメンを啜る手を止めて、見ると、テーブル一つ離れて対角線上に座っている、常連のおやっさんであった。
麺を嚥下してから、曖昧に頷きながら答えた。
「はぁ、先ずはどっさりある在庫が減ってからじゃないと、なんとも、どうも」
「一冊だけじゃよぉ、勿体ねぇからな、まぁ、頑張れよ」
くゆる煙草の紫煙で目が染みるのか、眉間にしわを寄せながら、
おやっさんは笑った。
私も、なんだか嬉しい様な可笑しい様な、温かな心持になり、一寸返事に困って、
「はい」
と、笑いながら答えた。
おやっさんとは、この食堂で以前から面識があったのだが、
常連の多くがそうであるように、顔見知りだが親しく話す様な間柄ではなかった。
それが先日、先頃出版した私の本に興味を持ってくれ、
(食堂のおばちゃんが宣伝した影響が強いが)
一冊、購入してもらったのだ。
話を聞けば、並々ならぬ銭湯フリークなおやっさん。
私などとは比にならない位、銭湯に掛ける思い入れが強かった。
しかも、現役の銭湯ヘビーユーザーでもある。
ホームグランドは高崎市。
ささやかなる支援者を得た私は、ひとしきりラーメンを啜り終えると、
額に滲んだ汗を、ハンカチでそっと拭った。