871声 夏蛙

2010年05月20日

今宵。
部屋が蒸し暑いので窓を開けると、網戸の向こう、遠くの方で微かに、懐かしい声。
「ケコッケコッケコッケコッ」
小気味良く鳴いているのは、雨蛙。
もうそんな季節かと、四季の移ろいの早さを実感すると共に、
その美しい声音に懐かしさを感じる。
その懐かしさは、
切なるものと言う感覚で無く、例えば、バスの車窓から眺める往来の通行人の中、
偶然、旧知の友人を発見。
そんな時に感じる、淡い懐かしさである。
その声は、しとしとと降る小雨に掻き消される様に、微かながら断続的に、
聴こえてくる。
この風流を、一句。
と思い、筆立てに手を伸ばそうとした瞬間。
突如、飛び込んで来た、パトカーのサイレン音。
筆立てに運んだ手は、ペンで無く耳かきを取って、戻って来た。