昨日の続き。
「廃業した所も載せているんですね」
ぽつりと呟いたのは、先日この本の頁を捲っていた、
出版業界に生きる百戦錬磨の業界人。
その言葉の裏にあるのは、実用的かつ商業的な本に仕上げるのなら、
その頁は不要と言う意味だろう。
「そう言う事はさておき」
と言う事を前提に、私はこの本を製作して来た。
だからこそあえて、「群馬伝統銭湯大全」などと言う、
戒名の如く発音しづらい、ややこしい名前を付けたのだ。
「群馬県銭湯MAP」だとか「ぐんま銭湯ガイド」なんて類の名前は、
端から付ける気はなかった。
それは言うなれば、恥を忍んでこっそりと言うが、私の美学である。
それを活動の根幹に置かなければ、こんな、毎回請求書が来る毎に、
自分の預金残高が請求額に近づいて行く様な、ある種自滅的な、事はできない。
しかし今回は、請求額と預金残高が拮抗していたので、額面の数字を何度も確認し、
いささか冷汗三斗の思いがした。
そして、銭湯にもやはり、美学を感じる。
銭湯にもと言うよりは、銭湯経営者に、と言った方が的確かもしれない。
社会の仕組みは変われど、街の容貌は変われど、銭湯文化の伝統を、頑なに守る。
その心意気こそが、日本人が古来から持つ、美学ではないか。
昭和と言う時代を生き抜いて来た世代、あるいは、
これから平成と言う時代を生き抜いて行く世代に、それを伝えたい。
銭湯を訪ねて独り、薄暗い路地裏をほっつき歩いている時は、そんな事を考えていた。
さて、昨日から6月、巷では衣替えの季節である。
私も心機一転して、出来上がった第二刷の本を売って行こうと思う。
正確に言うと、第二版での第一刷、と言う事になるらしい。
それにしても、この山と積まれた在庫本…。