台風は静岡県上空で温帯低気圧になって、夜の内に関東地方を離れて行った。
群馬県に至っては、とりわけ甚大な被害は無かった模様。
午前中は薄曇りで、午後からはすっかり快晴となったが、
やはり、吹き行く風は秋の冷たさ。
今日の事。
「どうしてこんなにも不快なのだろう」
眼前の光景を黙殺していればよいものを、どうしても、視界に入ってしまう。
カウンターに座っている私に、相向かう形で座っている、向こう側の席のお姉さん。
年の頃は、およそ20代後半。
茶髪に染めた頭頂部、若干伸びた黒髪は、巷で言うプリン頭。
身なりは上下、量販店のスウェットである。
鼠色の上と、細い黒縞の下の組み合わせは、どこか囚人を連想させる。
その容姿に関しては、特に述べるべき言葉も浮かばないが、問題はその容体。
まず、サンダルを脱ぎ散らかして、裸足を椅子の上に置いて、腰掛けている。
そのM字開脚スタイルのまま、牛丼の肉を一枚一枚、
持ち方の下手な箸で口に運んでいるのだ。
それを見ていて、こんなにも、牛丼が不味そうに感じたのは初めてであった。
不快ではあるが、未だここまでは社会通念として白線の内側だと思う。
そこに止めを刺すのは、彼女がテーブルに置いて、喰いながら凝視している携帯電話。
おそらく、ワンセグを視聴しているのだろうと思われる音が、
店内に漏れ聞こえている。
この雑音が、食事中の私に、甚だしい不快を感覚させる。
隣の席で、静かに食事を楽しんでいらっしゃる老夫婦が、見るに忍びない。
ファーストフードの牛丼チェーン店にだって、白線の内と外はある。
「お嬢さん、お下がりなさい、白線の内側まで」
ってのが、言えない。
牛丼に顔を埋めながら、こんな禅問答的もどかしさを感覚していた。
私も、からっ風に吹かれながら、歳を重ねた証拠であろうか。
若者風味な表現で、捨て台詞をばひとつ。
「お嬢さん、ビミョーにヤバイよ、その食い方」