5084声 ただ存在する庭園の凄さ

2022年04月10日

春。北軽井沢から高崎に抜ける途中に、「高崎クリスマスローズガーデン」に立ち寄った。下里見の果樹園「富久樹園」が手がける観光庭園だ。クリスマスローズとは、まだ寒い頃から初春まで咲く多年草。あまり花のない時期に、派手すぎない赤や黄色、白などの花を咲かすので(正確には、花びらに見える部分がガクであり、だからすぐに枯れずに長く楽しめる)人気の園芸種だ。

 

「富久樹園」の富沢登さんとは、彼がガーデンを始める前から知り合いだった。梨を中心に桃や洋梨など色々な果物を作る「富久樹園」であるが、僕はここのプラムを食べた時に心底驚いて、それはつまり梅干しみたいなカリッとしてすっぱいものという認識しかなかったプラムが、ここの完熟プラムを食べた時に「これは大きなさくらんぼやーしかも皮ごと食べられるから楽ー」ととにかく感動したのだ。以後、吾妻のイベントの際にケースで何箱もプラムや梨を仕入れ売ったこともあった。現在は、登さん主催で吾妻で毎年行われている「クリスマスローズフェア」のチラシのデザインを担当している。

 

日もぽかぽかと気持ちよく。緩やかな傾斜を登っていくクリスマスローズガーデンはただ歩き抜けるだけで至福であった。僕よりも、同行した女性2人の目がきらきらしている。整然と区画された庭ではなく、イングレッシュガーデンのごとく、自然な山肌に花が点在するのも良い。クリスマスローズだけではなく、赤く小さなコウムや、枝いっぱいに黄色をまとったサンシュユなど、わずかな時間で春の山を堪能できた。

 

「この山一帯をクリスマスローズガーデンにする」。まだ植え込みが始まっていない時だったか、登さんからそう聞いて、「なんでもグリグリ進めてしまう登さんだから、やるんだろうな」とポカンとした間抜けな反応をしていたように思う。重機も動かし、果実も育てながら、登さんはこうして、園芸誌にも毎年取り上げられるガーデンを作り上げた。たぶん今となっては「果樹園の社長が花はじめたよ」などと揶揄する人もなく、作り上げられるまでの根性ストーリーも必要とせず、ここにはただ庭園が存在するだけである。その凄さ。

 

桃栗3年、柿8年。はじめなければ、花は咲かない。