忽然と、と言う表現が誇張ではなく、
或る朝、忽然と彼岸花が咲いていた。
その名の通り、丁度、秋の彼岸の時期に申し合わせたように咲いてくる。
「彼岸花」、の他、「曼珠沙華」までは良いが、「毒花」、「墓花」。
さらには、「死人花」、「地獄花」、「幽霊花」なんて別名があり、古来から巷の人たちには、
不気味な花として見られてきたのであろう。
秋口になると、球根から育った花茎が、葉の無い状態で地上に出てくる。
その花茎の先端に、紅い六花弁を放射状に咲かせるので、「忽然」と、言った印象を受ける。
では、葉はどうするのかと言うと、花が咲き終わった後に、土から地上に顔を出す。
繁殖力が強く、痩せた田の畦には、群生している姿をよく見かける。
秋から冬にかけて、地上に出て来た葉が光合成しているのだと言う。
「田舎の美人」
そんな具合であうか、あの鮮烈な紅色が、目に止まる。
そして、とても魅力的な花である。
俳句では、「曼珠沙華」と言う呼び名がよく使われる。
おそらく、句作の上で使いやすいからであろう。
「彼岸花」だとか、「死人花」なんて言うと、イメージが固まってしまい易い。
そして、とても人気のある季語の一つである。
咲く前の姿幼し曼珠沙華 古賀まり子
咲く前のあの「つるん」とした花茎は、どこか「幼い」印象。
四方より馳せくる畦の曼珠沙華 中村汀女
畦の交差点に立って、ふと四方の畦を見渡すと、馳せて来るように群生している。
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子
鮮烈な紅が、空の紺をいっそう際立たせる。この天空は、高く広い。
曼珠沙華散るや赤きに耐へかねて 野見山朱鳥
落花して散るはずのない花に、もし、散る理由があったなら。
曼珠沙華消えたる茎のならびけり 後藤夜半
作者の透徹した眼の前には、残された花茎の群れがあるばかり。
【天候】
終日、秋晴れの残暑。