巷間で、と言っても、高崎市街の裏街の一部地域での話。
そこで今、一寸した、問題が起こっている。
と言う事を、行きつけの食堂で、常連のおやっさんから、聞いた。
何故、そのおやっさんが問題の話を私に持ち込んだかと言うと、
それが勃発している場所が、銭湯、だからである。
その地域には、かつて2軒の銭湯があった。
仮に、「風の湯」と「呂の湯」としておこう。
昨年、風の湯がその長い歴史に幕を下ろし、
残念ながら、廃業してしまった。
すると、幾年も風の湯を贔屓にしていた常連さん。
銭湯と言うと、自然、近所にある呂の湯に足が向く。
それが、問題の火種となった原因なのである。
呂の湯の湯温が熱いと言う事は、その地域では常識とされていた。
反面、風の湯の湯温は、呂の湯よりは幾分温く、
私も初めて伺った時分に、随分と入り易かった印象がある。
さて、呂の湯に通う様になった、風の湯の元常連さんたち。
呂の湯の湯船に浸かっている時に、こぞって、
水をジャバジャバ出して、うめてしまうのだと言う。
風の湯の適温を、呂の湯でも実現しようと言う試み。
これで面白くないのが、呂の湯の古い常連さんたちである。
それまで、伝統とされてきた呂の湯の熱湯を、
他所者に容易く温湯にされてたまるか。
ってんで、正面切って指摘したと言う。
「ちょっとすみません、ここは皆、熱い湯が好きで入ってますから、
あまりうめないで頂けますか」
おそらく、こんな丁寧語ではなかったと思うが、
大体、こんな調子であろう。
すると、風の湯の元常連さん。
「いえ、ね、あたしもあなたと、同じ湯銭を払っているんですから、
私にも、湯をうめる権利ぐらいあるんじゃないでしょうか」
「権利ときましたか。いや、呂の湯が熱湯ってのは、
もう、伝統ですからねぇ、ここいらの」
「伝統ったって、ここは銭湯なんですから、
銭を払った者が、快く風呂に入る場所なんですから、
あたしゃ、何と言われようがうめますよ」
「分からねぇ、野郎だね、まったく」
と言う具合に、常連さん同士で、問題が勃発しているらしい。
私に話してくれたおやっさんは、呂の湯の古い常連。
なので、勿論、熱湯に入りたいのだけれど、最近はこの問題で、
いささか湯が温いと嘆いていた。
それを聞いて私。
大岡越前の様な名裁きが下せる筈もなく、
曖昧な相槌を打ちながら、ただただ、ラーメンを啜っているばかり。
ラーメンがいささか温くなっていた。
【天候】
朝は雪雲が残っていたが、直ぐにすっきりとした快晴。
降り積んでいた雪も、午後には綺麗に溶けていた。