日刊鶴のひとこえ

この鶴のひとこえは、「めっかった群馬」に携わる面々が、日刊(を目指す気持ち)で記事を更新致します。担当者は堀澤、岡安、すーさん、坂口、ぬくいです。この5人が月替わりで担当しています。令和6年度は4月(ぬ)5月(岡)6月(す)7月(堀)8月(坂)9月(ぬ)10月(岡)11月(す)12月(堀)1月(坂)2月(ぬ)3月(岡)の順です。

4661声 海と山のオムレツ

2021年11月08日

どこからそんな話になったのか覚えていないのだが、「東吾妻町にあれだけいた南相馬からの避難者がいなくなった理由の1つとして、彼らは郷土の料理の味を覚えていてそれを求めて帰ったのではないか」という話をした。もとは震災直後のイベントで堀澤さんが言っていたことの受け売りだが、僕がその後妄想を膨らませて書いた小説モドキで書いた内容でもあった。

 

それを聞いて、その人は「海と山のオムレツ」(カルミネ・アバーテ著)という本を貸してくれた。その本の冒頭には「料理をし、それを共に食すという行為は、迎え入れることを意味する」という言葉が添えてあった。南イタリアに育ち、オリーブオイルと大蒜と赤唐辛子をベースにした豊かな食で育った著者が、ドイツで教鞭をとることになり、息子と共に故郷に戻るまでの地方地方での食と思い出を鮮やかに書いた自伝的小説だった。出てくる料理はどれも美味しそうで、はじめ過剰なまでに愛していた個性的な父親がやがてマイペースすぎて面倒な存在になり、最後はそれも受け入れて愛おしい存在になるという関係性の変化も良かった。何より人から勧めてもらった本を読むこと自体が久しぶりだった。

 

読了し、さて僕にとっての郷里の味は何だろうなと考える。うめまつの焼きそばか、竹の家のソースかつ丼か、もうなくなってしまった若竹のコロッケか。どれも物語性には欠ける。母親の味と言っても、バーモントカレーかハウスのシチューが浮かぶのみ。悩んでしまった。まあいいか、今から探すのも(思い出すのも)楽しいじゃないか。

4660声 吉祥

2021年11月07日

今回の中之条ビエンナーレの作品で最もその作品の名を耳にして、その写真をSNSで多く見たのは西島雄志さんによる「吉祥」という作品だろう。五反田学校の一番奥の教室に展示されたそれは、細い針金状の金属を巻いて小さな渦を作り、それを溶接し面を作り、それを大量に天井から吊るし、その総体が鳳凰の形をしているという・・文字による説明が難しい作品であった。

 

文字での説明も難しいが、撮影も難しかった。一言で言えば「本物を実際目にした時の圧倒的な存在感が、映像では出せない」ことにある。西島さんの作品はこれまでにも何度か撮っているが、生き物を形取った作品はまさに生き物に対峙しているかのような気配がある(彼が作品を作る上で常に意識していることも、気配だという)。実際「吉祥」の存在感、気配は過去最大のもので、アート好きに限らず、五反田学校の奥のくらがりの中で光る鳳凰を見た人は誰しもが何かを感じたはずだ。

 

ビエンナーレとしての映像アーカイブはすでにアップされているが(下記に貼ります)、作家自身の依頼としてインタビューも含めた映像を別で作ることとなり、今夜は最後の「吉祥」の撮影だった。ビエンナーレも終わり人の気配も薄まった夜の五反田学校、1時間半くらい作品に対峙して撮影を行った。どうなんだろう、撮れたのかな、気配が。

 

西島さんは昨年、中之条ビエンナーレでの関わりをきっかけに群馬に移住してきた。お隣東吾妻町新巻で「New Roll」というギャラリーも開いている(最近やっていた3人展もすこぶる良かった)。アートを街に広めるのは行政ではなく、アーティスト自身だ。彼の作品、行動は、この先に続いている。

 

4659声 寒さの境目

2021年11月06日

今朝、布団の中で目を覚ましただけで寒さを感じた。スイッチを押すように明らかに季節が変わった。

 

最近やたら追いかけられる夢を見る。仕事のBGMとしてゲーム実況を流しているからかもしれないが、昨夜はビルの最上階から敵の攻撃を掻い潜って地上へ抜け出た。夢の中では、僕はわりと俊敏なのだ。

 

ゲーム実況のせいだけではなく、無意識にも有意識にも幾つか逃げたい事があるのだと思う。現実では、僕はわりと憂鬱なのだ。

4658声 あっちがわとこっちがわをつくる

2021年11月05日

アーツ前橋が行なっている「アーティスト・イン・スクール」は、コロナ禍であっても多大な理解のある前橋市・宮城小学校において行われている。昨日今日とその撮影を行なった。

 

今回行なったのは、この試みで幾度となく宮城小に足を運んでいるアーティスト・中島佑太による「あっちがわとこっちがわをつくる」。6年生の子どもたちは、基本新聞紙と養生テープだけを使い、まずは教室を2つに分けるほど巨大な「壁」を作る。新聞紙はそのままでは直立しないので、丸めて柱のようなものを作る子どももいれば、天井にテープを貼り付けて上から吊ろうとする子どももいる。昨日貼っておいたものが今朝になったらはがれていて、壁が崩壊していた、という事も起こったが、形として出来上がってくる壁に興奮しながら、なかなか見栄えのする壁ができた。

 

そしてここからがこのワークショップの肝なのだが、事前の意見交換により2つに分かれている子どもたちは(その分かれ方は「ココア揚げパン派」VS「唐揚げ派」/「きのこの山派」VS「たけのこの里派」という可愛らしいものだった)壁の向こうの見えない相手に対して匿名の手紙を紙飛行機にして送る。微笑ましい内容が大半だが、なかには普段なら先生に怒られるような攻撃的な言葉で相手を攻撃する手紙もある。それはこの学校だからではなく、過去を見ても攻撃的になる人が多いそうだ。多分大人がやってもそうなる。そしてその理由は、なんとなくわかる。

 

中島佑太とは、不思議なもので会った当初は僕にしては珍しく「この人とは絶対親しくなれない」と思ったものだが、昨年の東京都美術館でのグループ展の撮影をはじめ、アーツ前橋関連以外でも会うことが多くなった。子どもたちを相手にしたアート活動を行う作家ではあるが、普段見過ごしている感情・環境についてハッとさせられることが多く、今後にも超期待をしたい作家である。

 

MOTアニュアル2020 透明な力たち 中島佑太

4657声 破ルノ守ルノ離レルノ

2021年11月04日

「秋、酒蔵にて」は中之条町で行われるモノづくり作家と料理人たちによるイベント。ここでも何度か書いた記憶があるが、めっかった群馬の堀澤さんとはこのイベントで知り合った。それだってお互い結構若かったと思うから(2010年くらいかな)、このイベントの息の長さもたいしたものである。

 

いちお客であったが、いつからかたまに映像を撮影するようになり、前々回からはポスターのデザイン担当になってしまった。一度足を運んだ人ならわかると思うが、モノづくり作家たちは個性的な・・というか、人間たらしな人たちばかりである。仕事としての関係は当初からなく、集まりになかなか顔は出せなくても親密さを今も感じている。

 

「秋、酒蔵にて」では毎回1つのテーマを決めて、それに特化した作品も作ることが前提となるのだが、今回は「お茶」。12/11からの会期中は茶道の先生も来てお茶を立てる。また、参加作家もそれぞれにお茶の練習をしており、当日は「作家が作った茶碗を用い、その作家が立てたお茶を飲む」なんて体験もできる。ポスターやチラシは今回も参加作家の小野口カナメさんのアイデアを紙に落とすかたちとなった。

 

先日、現状報告も兼ねた高崎・大聖護国寺に行った際に、いただいたお茶も、作家が心血注いで作っている茶碗も良かったのだが、「秋、酒蔵にてというグループの出入りの気持ち良さ」をぼんやりと考えていた。去る者あまり追わず、来る者そんなに拒まず。堀澤さんはじめ、僕が知った当初にメインでいた作家で今はいない人も多くいるが、今年はみなかみのライターも入ったりして(ライターがどう展示するのか?)特に料理人は毎回新しい顔が(しかも作家の多くが食に果てない愛情を持つので、熟練の料理人ばかりが)増えている。今回もものすごいことになりそうだ。

 

今回は、作家が自分の作品の番だけではなくお茶も立てたりするので、スタッフが足りていないとのこと。下記のフェイスブックページでは「おいしい賄い付きで、中之条での開催を手伝ってくれる受付ボランティアの募集」もされている。めっかった群馬には来場したことのある方も多いと思うので、ぜひともご協力いただきたい。

秋、酒蔵にてFBページ

4656声 奥四万湖で鰻を食べる

2021年11月03日

色々が緩和された11月。その反動もあるのか、中之条町を訪れる人が多い。週末になれば中之条ビエンナーレの効果は絶大で、町中央のつむじから、はずれの青山まで渋滞ができていたなんて話も聞いた。なにより、ステイホームで昨年きちんと見ていなかったのか、あるいは仕事量がちょっと減って気持ちが上向いたのか

 

今年の紅葉は例年になく綺麗に見える。

 

四万温泉のくれない旅館は湯蒸し鰻重で有名だが、数年前からその広告カードの印刷を受け持っており、集金もあるのでいつも直接届けに伺っている。今日はなんと、その鰻弁当をいただいてしまった。ワーオ!・・ということで、奥四万湖駐車場まで5分ほど車を飛ばし、鰻弁当の入ったレジ袋を手にし、奥四万湖を1周歩いて回った。その際、通り過ぎた車は50台以上か(こんなに車が行く状況ははじめて)バイクは10台ほど、で、歩いている人は僕以外に1人もいなかった。現代人は急ぎすぎである(人のこと言えない)。だいたい1時間はかからずに1周は歩き終わる。鰻弁当の味は、ここに書くまでもない。「今日の俺、優勝」と思える数時間だった。

4655声 未来は自然の中にある。

2021年11月02日

長野原町にある(株)きたもっくが2021年度グッドデザイン賞において金賞(経済産業大臣賞)を受賞した。昨年冬より、長野原在住のフォトグラファー・田渕章三さんアドバイスのもと、きたもっくに何度も足を運び映像を撮影してきた。そして受賞に合わせて、担当したブランディング動画も公開となった。

 

きたもっくが掲げる「未来は自然の中にある。」とはどういう意味だろうか。もちろん、キャンプ場運営というレジャー産業からはじまり、それを3次産業とカテゴライズするなら、その後に薪の生産を行い(2次産業)、今では浅間山の麓の森を購入し木々を活かす林業を行っている(1次産業)、そんな事業体系をもって自然の中に価値を見出し事業として発展させていこうという意は込められている。

 

ただ、約1年、きたもっく代表の福嶋誠さんをはじめ、きたもっくに関わるスタッフと接してきて、また撮影を続けてきて、企業という枠には捕らわれない「もっともっと小さな個人的な感覚」を大切にしている企業であるとも思っている。浅間山の麓は、僕が住む中之条町から車で1時間もかからない距離にあるが、まずもって活火山である浅間山の存在が途方もなく大きい。そんな大きな自然を前にした時の畏怖の念、興奮、そういった感覚をスタッフ皆で共有している。

 

それはふわっとしたスピリチュアルな話とは真逆にあり、仕事も暮らしもぶよぶよと余分なものを付けすぎた現代に対するカウンター、生きるために必要な事の深掘りであるように思う。撮影は続く。

 

4654声 中之条ビエンナーレ2021オンライン

2021年11月01日

中之条ビエンナーレは、群馬県中之条町で2年に1度開催されている芸術祭。越後妻有や瀬戸内など、国内に大きな芸術祭あれど、一時期にくらべて地方芸術祭は減ったのではないだろうか(調べていないから感覚的にだけど)。アートを展示すれば観光客がどっと来る、と受け取られ様々な場所で開催されたのかもしれないが、地域民がメリットを感じられなかったり、アーティストのモチベーションが保てなかったり、なにより「想像以上の熱量」を必要とすることなので、芸術祭は容易いものではない。

 

「コロナ禍ということもあり、全アート作品の映像化をしたい」と相談を受けたのは今年に入ってからだろうか。中之条町各地の会場、ウェブのみの作品1点を含めて124作品。作家自身で映像を作りたいという者も23名ほどいたので実際には101作品の映像を作る仕事が今年一番大きな仕事となった。数ヶ月は記憶がない(大げさ)。中之条ビエンナーレは11/14(日)まで続くが、チェック待ち1つをのぞいて123作品の映像を以下より見ることができる。僕1人の仕事ではなく、フォトグラファーの吉江淳さん、丸山えりさん、編集者の阿部誠人くんにお世話になった。また、参加作家のdamadamtalを主に、友人数人に作品鑑賞モデルとして協力いただいた。

中之条ビエンナーレ2021オンライン

 

途中から、「これは狂気だ」と思った。狂ったように仕事ができる機会はそう多くはない。

むしろを感謝している。

その間に溜めてしまった仕事もあるので、この狂気はきっと大晦日くらいまで続く。

4653声 続くオンライン

2021年10月31日

曇りのち雨。今日はオンライン句会の運営で、終日、茅場町。何とか無事に配信を終えた。このところ句会やら何やらオンライン続きで、気苦労が絶えない気がする。まさにオンとオフのメリハリをつけないと、疲弊してくる。ともあれ、明日から十一月。岡安さん、頼みます。

4652声 秋の穏やかな

2021年10月30日

穏やかな快晴。荒れ放題の庭や花壇に手を入れた。冬支度といったところ。精霊飛蝗が何匹も、日向の箒にしがみ付いていた。冬が来る前の、この秋の穏やかな日和というのが好きだ。これを過ぎれば、年末の焦燥感にきりきりと心が軋む日々となる。

4651声 妙な納得

2021年10月29日

秋晴れ。帰路にちょっとした繁華街を通る。今日は夜の9時ごろに通りかかった。メイド服を着たスマートな女性がポケットティッシュを配っていた。ひとつもらい「ありがとうございます」との声に、顔を見ると、確かに男性であった。きれいな男もいるものだ。すこし離れたところでは、ネオンの暗がりで吐いている若い男と、それを動画撮影している若い女。異様だが、そうか、これが本来の景色だったかと妙に納得した。

4650声 不純

2021年10月28日

夜降った雨が朝日を浴びて蒸発というか、霧になってゆく清々しい朝であった。私はといえば、もうくたくたになって帰宅。いかんと思いつつも、深夜に冷たい麦酒などが飲みたくなり、致し方なし。今日は半年契約の予定の書評原稿の初回に取り掛かる。70代、80代の句集出版が多い。おしなべて立派な経歴の人たちである。そのなかに不純な人がいたら面白いのにな、などと思いつつ、立派な句集に付箋をつけていく。

4649声 夜長に潜る

2021年10月27日

曇りのち雨。インドの青鬼の二缶がよく回ってしまい、夜は何もできず。どうもこう酔ってくると、気が付くと昔好きだった映像やら音楽やらをだらだらと観てしまう。確か、堀澤さんもそんなことを書いていたような気がする。YOUTUBEに潜り込んでいると、すぐに小一時間くらい経っているので恐ろしい。

4648声 安心

2021年10月26日

雨のち曇り。年末に向け徐々に切羽詰まってきた。東京都など首都圏4都県と大阪府は昨日、飲食店への営業時間短縮要請が解除されたので、ひと安心である。今日もしかりだが、夜8時以降に店入れることがこんなにありがたいことかと、おそれいった。ラーメンなど啜って帰宅。昨年出した句を今年も出すという失態をおかしてしまった。校正の段階で編集者に気が付いてもらえて、こちらもまたひと安心であった。

4647声 舌の鼓

2021年10月25日

晴れのち曇り。午前中に胃バリウム検査をやったので、午後は若干、腹痛に苦しむ。今年もあと二月ほどとなり、カレンダーを眺めていると、いろいろと焦燥感がこみあげてくる。夕食に崎陽軒のシウマイ弁をつまむ。「この味この味」と舌鼓をうちながら。

4646声 稲架の入日

2021年10月24日

まさに秋日和。すこし遊びつつ、群馬からの帰路。山の方は薄紅葉。この時期の里山は、稲架などが並び郷愁を誘われる何とも言えない、風情がある。

4645声 風の県庁

2021年10月23日

秋晴れながら風が強い一日。予定通り、朝から前橋に向かい、急遽の予更で群馬県庁へ。32階のカフェで取材を受け、昭和庁舎で写真を撮った。上手く伝えられただろうかと自問しながら、県庁をあとにした。

4644声 小さな楽しみ

2021年10月22日

終日、冷たい雨で弱る。贈り物が届き、箱を開けると缶のクラフト麦酒。好きな物を公言していると、こういう嬉しいことがある。どんな味だろうか、小さな楽しみがひとつ増えた。