日刊鶴のひとこえ

この鶴のひとこえは、「めっかった群馬」に携わる面々が、日刊(を目指す気持ち)で記事を更新致します。担当者は堀澤、岡安、すーさん、坂口、ぬくいです。この5人が月替わりで担当しています。令和6年度は4月(ぬ)5月(岡)6月(す)7月(堀)8月(坂)9月(ぬ)10月(岡)11月(す)12月(堀)1月(坂)2月(ぬ)3月(岡)の順です。

1203声 鶴のひとこえ1200声記念企画 ~クレインダンス対談2~ 第2回(全4回)

2011年04月17日

■クレインダンス対談 第2回

対談:堀澤宏之×抜井諒一

場所:中央前橋駅前の小料理店

演目:「ワルノリ俳句ing」

堀:俺たちがやってる事自体が、それこそ、ある種の「俳句」なんじゃないかな。
抜:そうですね、僕はもし「ワルノリ俳句ing」が無かったら、
今のように心血を注いで俳句はやっていないでしょうね。
やっていたとしても、だいぶその時期が遅くなっていたと思います。
そもそも、何で「俳句」に目を付けたんですか。
堀:いや、ただ街歩きがしたかったんだよ。
でも、街を歩いて酒を飲んで帰って来たんじゃあ、ってことで、五七五。
抜:強引でしたね、随分と。でも、僕らの言う「街歩き」って、
なんだか、一風変わってますよね。
堀:そうだよね、「路地」とか「銭湯」とか。
抜:思うんですけど、現代社会で「路地」とか「銭湯」とか気になっている人間は、
「さびしい」からなんですよ。
それは、俳句とか、他の文芸も共通すると思います。
堀:「街づくり」ってのも、根本は同じ気がするな。
抜:「さびしさ」ってのが、大きな主題にあると思いますね、すくなくとも、僕は。
堀:この前、中之条の知り合いの家でお茶飲んでたら、言うんだよ。
「田舎は人づきあいが大変だ」って、その人も町に来た時は、
公民館で、靴の脱ぎ場所が困ったくらいだった、って。
だから、都会の方が案外やさしいかもな、「ほっといてくれるから」だって。
抜:だけど、都会はさびしい。と、そう言う視点のさびしさですね。
堀:そう。それを感じたヤツがその、「何か」始めるんじゃないかな、
「繋がりたい」と思って。
抜:そうかも知れませんね。初めは、繋がり方の模索ってとこですかね。
堀:俺は人と会った時に共感できるのは、「独り」の人。
抜:はぁ。
堀:「あっ、この人って独りなんだ」と思った時に、共感するんだよなぁ。
抜:幸せな家庭、幸せな家族に囲まれているけど独り、って人。
そう言われてみれば、僕等の周辺にも、沢山いますね。
堀:だから、共感するんだよな。それがないと、共感までいかない。
抜:男でも女でも、ですか。
堀:男で女でも。

ここから堀澤氏が、思いだしたように、
孤独な知り合いに、電話をかけ始める。

【天候】
終日、穏やかな快晴。

1202声 鶴のひとこえ1200声記念企画 ~クレインダンス対談2~ 第1回(全4回)

2011年04月16日

■クレインダンス対談 第1回

対談:堀澤宏之×抜井諒一

場所:中央前橋駅前の小料理店

演目:「料理」

堀澤:この前、内田さんってシェフのさ、料理を食べに行ったんだよ。
抜井:へぇ。
堀:それが凄かったんだよ、抜井も居れば良かったんだけど。
抜:何がそこまで凄かったんですか。
堀:基本的にさ、料理って美味い物を食べに行くじゃん。
抜:はい、基本は、そうですね。
堀:それがさ、美味くないわけ。
つまりさ、映画でもなんでも、基本は、感動的だったり、面白いようにするけど。
それをあえて、つまらなく、してる。って言う料理。
抜:「あえて」なんですね。
堀:そう。それを10品くらいのコースでやる。
そして、後半にシェフが来るんだよ、「どうですか」って。
抜:「どうですか、美味しくないでしょ」って、ですか。
堀:そう。「美味しくないように作ってるんです」って。
「今の料理の足りない味を、次の料理で表現してます」って言うわけ。
抜:はぁ~。
堀:で、最後にさ、「僕の料理は自分から求めていかないと分からない料理です」
と言うような事を言うんだよ、これは俺も良く言うんだけど。
で、最後のデザートで帳尻が合うってことを、事細かく説明する。
抜:お客さんは、静かにそれを聞いているんですか。
堀:いやむしろ、あっけに取られる。だけど、それを超えた時に満足するんだよな。
俺はいままで、そこを超える前に引いてたね。
だけど、言葉にしなくちゃ駄目だと思った。
抜:誰もが、つまり「大衆」が食べても分からない味って事ですよね、それは。
堀:そうなんだけど、感動したね、話に。
抜:話に、ですか。
堀:だってもう、独演会でしょ、あれは。

お互いに爆笑

【天候】
終日、快晴。
午後より、強風、いやこれはもう、狂風。

1201声 はなおれ

2011年04月15日

日刊「鶴のひとこえ」第1200声記念企画。
と銘打ちたいところだが、今回も常の書き出し。
と言うのも、昨夜。

ドバドバと、大量の鮮血が鼻から出ていた。
それをハンカチで拭きつつ、「取り合えず家へ帰らねば」。
と言う一念で、真っ暗闇の路をふらふらと帰って来た。

一夜明け。
これが夢ならば、と言う淡い期待は、
鏡の前で、完全に打ち砕かれた。
なんだか、アンパンマンを彷彿とさせる顔面の状態。
血だらけの顔を洗い流し、鼻をかんだ。
赤く染まったティッシュを見て、悔恨、寂寥、苦痛、恐怖。
さまざまな感情と感覚が、混ぜこぜに押し寄せて来た。

今日の日中、病院へ行った。
祖母が入院している病院。
この間までは見舞客として来ていたのに、
今度は、患者として来る事になるとは。
皮肉な巡り合わせである。

「どうされました」
と聞かれ、
「電柱に激突しました」
と正直に答えた。
一連の診察の結果。
鼻の骨が折れていた。
レントゲン写真を見るに、ポキンと折れている箇所が、
鼻頭頂部にある。
来週、ここよりも大きな病院へ行く指示を受け、
忙しく診療は終わった。
傷だらけの顔をマスクで隠しつつ、忙しい午後の病院を出た。
しっかし、ひでぇ顔だな、こりゃ。

【天候】
終日、快晴。

1200声 収録日

2011年04月15日

第1200声、である。
などと、常の書き出しだが、通常ならば、
100声毎の記念企画を催している。
先の大震災の状況を鑑み、記念企画は自粛。
する筈もなく、実は、今晩これから、記念企画を収録しに行って来る。

収録。
と言う事は、いつものように、「対談」形式の内容を、
目論んでいるのである。
対談場所は、前橋市街地の路地裏の何処。
私もまだよく知らない。
と言うか、集合してから決めようと言う、肩の力の抜け具合。

「クレインダンス対談」
と言う事で、堀澤氏と私。
なのだが、二人だけで対談を終えた事が、未だかつて一度もない。
対談の日に、偶然道端で知り合いに会ったり、知り合いが来たり。
つまり、誰かしらが加わる。
正確に言えば、誰かしらを引き寄せのが、通例となっている。

さて、今宵は誰か引き寄せられるのか。
それとも、初の二人対談となるのか。
もう出かけよう。
今の時点で、大幅に集合時間が過ぎているのだから。

【天候】
終日、快晴。
穏やかに晴れて、暖か。
市街地の至る所で、花吹雪。

1199声 常夜燈と桜

2011年04月13日

「百花繚乱」
里山の今時期は、まさにそんな春の景色が広がっている。
桜も見頃を迎えているが、今年は、
ライトアップを自粛している名所が多い。
然るに、夜桜見物は困難。

しかしよく考えて見れば、それが本来の姿。
朧な月明かりの下で眺める桜の景色こそ、
日本人が、古来から愛でて来た景色と言えよう。

昨今の状況を鑑み、どうであろうか。
街燈を出来るだけ消して、街道筋に残っている、
常夜燈に火を入れる。
てぇのは。

随分と、節電になる。
節電になって、江戸の風情も出る。
夜間の管理が大変だろうが、想像しただけで、面白い。

常夜燈の明かりで観る、桜。
その、闇を溶かして映し出される景色こそが、
純然たる、風流。
その景色を目の前に、現代人である私たちはおそらく、
ポケットからガサゴソと、携帯電話やデジカメを取り出しすのだろう。
そして、徐に、カシャリ。

【天候】
終日、快晴。
所謂、ぽかぽか陽気が続く。

1198声 原風景のスライドショー

2011年04月12日

昨晩の深酒の影響が、色濃く出ている。
私のこの、深刻な花粉症の諸症状に、である。
おそらく、免疫力が著しく低下してしまったのであろう。

この、花粉に侵された頭に、思い浮かべている、
おぼろげな映像がある。
それは、風呂。
平日午後で誰もいない、銭湯の浴室。
貸切状態の浴槽に独り浸かって、寛いでいる。
湯気の中、窓から斜めに射しこんでいる、夕日の束。
その日その場所に、確かに私は居たのである。
これは、自分の中の、原風景の一枚なのであろう。

裏の田圃に現れた、一面の菜の花畑。
榛名山の後から豊かに湧き上がる、雲の峰。
風の強い日、なだらかな稜線が澄んでいる赤城山。
全て、郷愁を誘う私の原風景であり、
時折、スライドショーで脳裏に映し出される映像である。

昨晩、福島県南相馬市で被災されたおばあちゃんと、
会話する機会を得た。
福島県から遠く離れた群馬県で、夜を過ごしつつ、
郷里の話を聞かせてくれた。
その時、おばあちゃんの脳裏にも、
郷里の原風景がスライドショーで、映し出されていたのだろう。
おばあちゃんの柔和だがどこか悲しげな瞳の表情から、
そんな印象を受けた。

一日も早く、スライドショーの映像ではなく、
その風景をその目で見られる日が来ればよい、と思った。
話の折。
「おばあちゃんの家は、そこから何キロくらいなの」
と、質問すると。
「そうさなぁ、大体、二里くらいだ」
と言う、回答。
「二里」を、「およそ8km」と計算できるまで、少し時間が掛かった。
長さの単位を、「里」で答える。
そこに、おばあちゃんの人柄の、はたまた南相馬市の、素朴さを見た。
素朴な事ってのは、美しい。

【天候】
終日、快晴の一日。
午後より風強く、花粉の飛散量も多し。
依然として断続的な、余震。

1197声 屋台のぬくもり

2011年04月11日

あの日から一ヶ月である。
そんな日に、何の仕打ちか、福島県で、また地震。
最大震度は6弱と言う、抜き差しならない状況。
それでも、復興の手は休まない。

昨日は、高崎市の、高崎田町屋台通りや、すもの食堂において、
群馬県に避難している方々と、交流する催しが行われた。
避難場所は、東吾妻町の町営施設。
そこからみんな、車に乗ってやって来たのである。
私は夜から行って、屋台で飲んでいただけなので、
大した事はしていないが、それでも。
被災された福島県南相馬市の方々から、直に被災状況を聞くと、
ニュースでは得られない、痛切な思いが伝わって来た。

屋台の扉が開いた。
コの字型のカウンター越しに、ピザの注文である。
それも、5枚。
おやっさんは、大急ぎで焼にかかる。
避難所へ行っても、焼き立てのピザは、きっと食べられない。
そして、この狭い屋台で肩を寄せ合うぬくもりは、きっと感じられない。
ピザが焼き上がると、それを御土産に、御一行は車で、
東吾妻町へと発った。
高崎市から避難場所へ到着するまで。
いや、食べるその瞬間まで。
暖かくあってほしい、と思った。

【天候】
終日、晴れ。
午後より雲多く、一時、小雨。
夕方、群馬県は震度4程度の揺れ。

1196声 ジェットの刺激

2011年04月10日

「赤くなってるよ」
言われて、鏡の前に背中を向けて見れば、
背中の真ん中に、野球ボールほどの赤丸が二つ。
「15センチくらい離した方がいいねぇ、あれは、気持好いんだけど」
「そうですね、気持好かったんで、つい、近づけてしまいました」
手拭いを背中にまわして、ゴシゴシと、
恥ずかしさ紛れに、擦ってみた。

私の背中に赤丸を付けたもの。
それは、浴槽に付いている、「ジェット噴射」なのである。
今日は、渋川市の銭湯「福寿湯」に久しぶりに出掛けた。
いつ来ても、福寿湯の浴室は、清潔で洒落ていると、感じる。
福寿湯の湯船には、強力なジェット噴射が二基、付いている。
これを背中に当てて、ゆったりと湯船に浸かるのが、
入浴客の至福の時間なのである。

福寿湯において、私の数ある中の好きな点に、
湯温が温い、と言う点がある。
これにより、ゆったりと長湯ができる。
ジェット噴射を至近距離で背中にあて、長く浸かっているものだから、
その跡が、くっきりと残ってしまったのである。
「爺臭い」
と思われても、私の体がジェットの刺激を欲しているのだから、
そう思われても、仕方が無い。

湯上がり。
番台のおばちゃんと、オロナミンCを飲みながら、雑談。
私の本を読んで、首都圏から来てくれた湯客があるようだった。
以前、開催された銭湯ナイトで、
群馬県北部の銭湯事情を尋ねられた事があり、
その人かな、とも思った。
県外から、女性も来ている様だった。
伝統銭湯では、「女性の強さ」を思い知る場面に、多く出くわす。
ここ福寿湯も、然り。

【天候】
終日、穏やかな快晴。
群馬県内の里山、菜の花と桜のコントラストが、とても綺麗である。

1195声 真夜中の砲弾

2011年04月09日

朝から雨。
休日、それも桜の時期の雨。
ってのは、巷には喜ばれないかも知れない。
しかし、今日の私にとっては、喜ばしいことに思える。

花粉症のこともあるが、雨の休日。
ってのは、神経を休めるには、丁度良い。
一刻も早く、曇天を引き裂いて、青空の顔が見たい。
なんて思っている方々は、大変、精神的に健康な状態だと思う。

昨晩は、隣町にある場末の居酒屋に行ってみた。
「行ってみた」
と言うのは、その店が初めての店だったから。
初めて入る酒場(この場合では個人経営の小さな飲み屋であるが)、
と言うのは、ちと緊張する。

生麦酒から始まって、カウンターでひとしきり飲む。
店内、私を除いて、みな顔見知りの常連さんばかり。
その中にいて、ひとり粛々と、杯を進めてゆく。
時折、厨房の親父さんが気を使って話しかけてくれるが、
会話を上手く繋げない。
仕様が無いので、テレビのボクシング中継ばかり見ていた。
会話に混ぜてほしい。
のではなく、この、空気に混ぜてほしい。
のだな、などと、たこわさびをつつきながら、
自らの胸の奥を探っている、かなしさ。

帰る頃にはやや千鳥足になっており、
店の女将さんが、見送ってくれた。
覚束ない足取りで、二階から降りて行く、私の背中を、
呆れた様な顔で見ているような、気がした。
階段の下まで降りて、数歩。
「ゴチリ」
音がした暗がりの方へ目をやると、
砲弾のようなものがひとつ転がっていた。
顔を近づけて確認すると、それは、
プロパンガスのバルブの上にかぶせてある、カバー。
元の位置に立てて、帰った。
砲弾、ではなくて良かった。

【天候】
朝より雨だが、直ぐに止む。
午後には薄日が差し込み、しきりに囀りも聞こえた。

1194声 大地がある

2011年04月08日

少し動けば、軽く汗ばむ。
くらいに留まらず、額にじんわりと汗が浮き出すほど。
今日の体感気温が、である。

高崎城址のお濠端の桜も、7分咲位になっており、
通行人の眼を楽しませている。
極少数ではあるが、昼間からブルーシートの上、
のんびりとお花見していた。
昨晩は、3月11日の地震以来、最大の余震が起こったので、
巷にも、いささか緊張感が戻っているようだった。
今回は、左程、大きい津波が来なかったのが、
せめてもの救いであった。

あの日。
押し寄せた大津波が、地上の、あらゆるものを、
飲み込んで行ってしまった。
報道写真や映像を見るに、一面の瓦礫であった。
その後は、放射能に脅かされる事になった。
しかし、大地は残っている。
日本の、この大地には、桜が咲くではないか。
桜が咲いて、人や動物が住んで、畑や町がある。
空があって、空気があって、水がある。
そこに、あまねく、光がある。

【天候】
終日、薄曇り。
晴れ間から注ぐ日差しは強く、気温も20度前後。
計画停電は今日で解除。

1193声 お見舞い

2011年04月07日

市街地の外れにある、左程大きくも、かと言って小さくもない病院。
そこに、祖母が入院したのは、一昨日。
その話を、両親から聞かされたのは、昨晩。
詳しい話を詮索せず、箸を休めないまま、
「取り合えず、明日、行ってみる」
とだけ、答えた。

流行らなそうな鄙びた和菓子屋で、和菓子の詰め合わせを、ひとつ買った。
それを、見舞いの品に携え、病院の入り口をくぐった。
昼さがりの病院は、閑散としており、受付には人も疎らだった。
テレビの声が響く中、忙しげに若い女性の看護師が、行き来していた。

二階へ上がると入院病棟になっていた。
病院特有の消毒剤のような匂いが、鼻をつく。
中央の受け付けを通り過ぎて、一番端の部屋から、
部屋の入り口にある、祖母の名前を探してゆく。
通路には、各部屋のドアが、開け放たれている。

そう言う病棟なのだろうか、入院患者は皆、お年寄。
患者同士で歓談をしたり、点滴を打ちながら寝ていたり、
それぞれの時間を過している。
私が部屋を覗きこむと、起きている人は、少し驚いた様な表情で、
じっと、私の顔を見た。
部屋に顔を入れた瞬間、室内の空気が、重く、淀んでいる様な感じがした。
ここでも、若い女性の看護師が、背の高い銀色の台車に薬品を載せて、
忙しく各部屋を回っていた。

祖母の名前は、一番奥の部屋にあった。
開け放たれた窓から入り込む、午後の柔らかい日差し。
春風がやさしく、薄緑色のカーテンを揺らしている。
カーテンの前、窓の桟に手を付いている御婆さんが、
やはり、少し驚いた様な表情で、私を凝視している。

一番入口に近いベッドで、祖母は今、寝ていた。
打っている、透明な点滴の効用か、子供のように、深く寝入っている。
正月に会った時から、随分と痩せた印象である。
その為、一目見た時は、ここに寝ているのは、別の人かと思った。
名前を確認してから見ても、腑に落ちなかった。

「おばあちゃん」
と声をかけようと思ったが、止めた。
ベッドの脇の机に、備品が置いてあるので、
午前中に見舞いが来たらしかった。
その脇に、先程の御菓子をそっと置いて、部屋を辞した。

薄暗い廊下から、階段を下りた。
祖母の部屋から、遠ざかって行く。
過去の、元気だった頃の祖母の映像が、瞼の裏に映った。
病院の外へ出ると、あまねく、春の光が満ちていて、
懐かしさが込み上げて、胸を刺した。

【天候】
終日、快晴。
風もなく、暖かな一日。

1192声 平日の昼の閑散

2011年04月06日

「しかし、ガラガラだな」
思わず心の中で呟いてしまったのは、
今日、行きつけの食堂の暖簾をくぐった瞬間。
いつもの平日の昼時は、工業団地の工員さんたちが、
店内にひしめいている筈。

お茶を持って来てくれた、おばちゃんに聞くと、
工業団地が全体的に、昨今の計画停電等の影響で、
勤務時間や出勤日が、大幅にずれているらしい。

「大変ですねぇ」
と声をかけたら、おばちゃん、薄笑い。
隣にある、チェーン展開のうどん屋さんが、
計画停電中は休業するので、お客さんが流れて来ると言う。
「停電特需」
ったら世間体が悪いが、今日みたいな日の反面、そんな日もある。
やはり、昭和時代を生き抜いてきた商売は強い。

おばちゃんは、自宅横の畑で、かき菜やほうれん草を作っており、
それを食堂の定食メニュー内で、出している。
今回の放射能汚染の報道で、自粛していたらしい。
私も、一番美味しい時期に、おばちゃんの春野菜を食べられない事を、
口惜しく思った。
奥から、食堂の若旦那が出てきて、まだ赤ちゃんの息子の為、
飲料水の確保に各商店を奔走した話を、意気揚々と語りだした。
おばちゃんは、先日、上毛新聞社の本社まで、義援金を届けに行ったらしい。
ここでもやはり、昭和時代を生き抜いてきた強さ、を感じた。

ラーメンを啜り終わって、箸を置く。
誰もいない店内に、テレビの音が響いている。
ゆっくりと、入口の硝子戸が音を立てて開いた。
入って来たのは、一見して職業の判別がつかない、常連のおやっさんだった。
そして、いつもの席で、いつものラーメン定食。

【天候】
終日、快晴。
晴れて、とても暖かい一日。
計画停電は、4月で一旦打ち切りとの発表。

1191声 風が光って山が笑う

2011年04月05日

「山笑う」
と言う季題があるが、どの山も今時期はまさに、
微笑んでいるような印象を受ける。
県内の桜も、満開の手前まで来ており、
いよいよ華やぎの季節を迎える。

街中で見かけたのは、大学の新入生、であろう。
みな真新しいスーツを来て、お母さんと一緒に群馬音楽センターへ入って行く。
今日を皮きりに、群馬音楽センターはもとより、
各学校で入学式シーズンを迎える。
彼らが市井にも、華やぎを添えることだろう。

また、週末の居酒屋や飲み屋街では、酔いつぶれた若者を、
多く目にする季節の到来でもある。
震災の影響を鑑み、今年はいささか下火になるだろうが、
東北地方のアルコール業界は、むしろ飲んでもらった方が助けになるだろう。
「お酒が心の癒しになる」
と言う事を勉強する、良い機会になるやも知れぬ。
とまれ、新入生の多くは、未成年なのだが。

大方の新入生諸君は、高崎市役所の付近の桜並木で、
母親と記念写真を撮っていた。
初々しい彼らに、当たって、吹き行く風は、キラキラ光って見えた。

【天候】
終日、快晴。
風もなく、雲一つない青空。
計画停電は、今日明日とも見送り。

1190声 桜と猫とわたし

2011年04月04日

前橋地方気象台が、昨日の3日。
市内においてソメイヨシノが開花したと、発表した。
気象台発表によると、桜は1週間ほどで満開となる見通しなので、
今週末には満開を迎えるのだろう。
今年はどこも、桜満開の中での、入学式であろう。

週末は都内の方へ行っていたのだが、
やはり各商店や自動販売機では、水が売り切れ状態だった。
飲料水の確保は、群馬県よりも、はるかに困難な様子が伺えた。
「お一人様三本まで」
なんて張り紙が、どこの量販店の飲料水売り場に貼ってあった。
しかし、全く無い訳ではなく、随時、供給はされている。
それを上回る需要があるらしい。

地方よりも桜の開花が早い都内では、この時期、
「桜まつり」が開催される予定らしかった。
その看板の上には、どこも、「東日本大震災の云々」と言う口上で始まる、
開催中止を伝える張り紙。
上野公園には、パンダ見物客の長い列。
繁華街には、飛び回っている、春休みの子供たち。
飲み屋街には、新社員と思しき青年たちの一群。
あてもなく、ふらふらと街を彷徨っているのは、わたし。
暗がりに入り込む寸前に、振り返った猫と、目が合った。

【天候】
終日、晴れ。
午後より風強し。
先週末に引き続き、今日、明日も計画停電は見送りの様子。

1189声 生活の現像

2011年04月03日

「一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩下がる」
ってな歌の文句ではないが、そのくらい、
腰を据えて取り組まないといけない。
そう感じているのが、私の句業である。

生活の中で俳句を作る時。
その句作の状況は、大きく二つに別れる。
季題が現像か、想像か、である。
現像というのが正しいか否か、怪しいところではあるが、
現実と言う意味も加味している。

季題の現像。
ってのは、読んで字の如く、実物の桜を観察して、桜の句を作る。
季題の想像。
ってのは、その反対に、過去に観た桜を想像して、桜の句を作る。

端的に言えば、どちらの状況でも、無理なく句が作れれば良い。
のだが、現在、私の場合、やはり現像を写生した句の方が、
「秀」となる事が多い。

先日も、先生に見てもらった句の中。
丸が付いているのは、全てと言っていいほど、現像を写生した句。
その中、「とりあえず代表句」てぇな、意外と好評だった句も、
現像の梅を、観察して作った句。
就寝前に、寝床の中でメモ帳に書き留めた句など、
ことごとく、駄句ばかりである。

その伝で行くと、この文章も、現像を前にした写生文の方が、
読者に対し、訴えかける文章が出来るかも知れない。
しかし、私のおぼろげな生活の現像自体が、
面白味のないものばかりである。
然るにやはり散文は、いささかの想像を交えつつ、創作がした方がよい。
と言う結論に達した、私の場合は、であるが。

【天候】
朝より曇り。
気温は昨日から大分下がり、冴え返る。
夕方には晴れるが、肌寒い一日。

1188声 水元公園散歩

2011年04月02日

葛飾区の水元公園。
てぇ名前だけは、知っていた。
映画「男はつらいよ」の劇中、何度も出て来る、ロケ地だからである。
自然豊かな水郷公園で、都内屈指の花菖蒲の名所としても、
名を馳せている。
この公園を、ほっつき歩いていたのは、今日の午後3時頃であった。

桜は、ソメイヨシノが2分咲といった具合なので、
花見客などは見当たらなかった。
公園となりにある、香取神社には、枝垂れ桜の老木があり、
満開に咲いていた。
そのお陰で、メモ帳に1、2句書き留めることができた。
肝心の花菖蒲は、この時期見る影もないが、
園内には春の花々が咲いており、春の色に彩られていた。

春休みなのであろう、沢山の子供たち。
皆、手に網とプラスチックの虫籠を持ち、水辺を走り回っている。
都内にも、子供が思いっきり遊べる公園が、やはり必要である。
と、感じた。
女の子の一群が集まっているので、近くに行って見ると、
網の中に、テナガエビが獲れていた。

香取神社の脇には、大人がひょいとひとまたぎ出来るほどの小川がある。
そこでは、親子連れや、地元のおじいちゃんなどが、短い竿に玉ウキをつけて、
釣りをしていた。
じっと見ていると、斜向かいのお父さんが、一匹、釣り上げた。
小さい、ハゼであった。
針から外すと、少し離れたところをあるいていた鷺の前へ、投げた。
それに気づくた鷺のくちばしは、地に着く前に、器用にそれを捉えた。
テナガエビにハゼ。
群馬とは随分と水辺の生き物が違うことを、実感した。

夕方になり、帰路につこうとした時に、地面がゆるやかに揺れた。
「余震が未だ続いている」
と感じ、少し不安になった。
周りに人にも、一瞬に、緊張が走っている様だった。
【天候】
終日、穏やかな快晴。
花粉、甚だ多し。

1187声 初花の誘い

2011年04月01日

「こっちこっち」
と、案内をされたのは、暗がりの幹。
差し出された指の先、屈んで顔を近づけてみると、あった。
初花が、である。

僅かに二輪ばかし、咲いていた。
この、前橋公園内の他のソメイヨシノは、未だ蕾を固く閉ざしている。
公園の隅に、少しばかり立ち並んでいる夜店屋台も、
骨組みだけを残している。

懐中電灯で照らし、慌てて句を引っ張り出そうと、その可憐な花弁を凝視。
無粋な私の見つめ方が、桜の花びらの機嫌を損ねた様で、
いささか、花の色が陰った様な気がした。
そんな調子なので、満足な句など出来やしない。

おまけに、集合時間を1時間しくじってしまい、
私に残された時間は、せいぜい30分。
30分で何とか数だけを揃えて、投句。
月例の句会も、折角、趣向を変えて、前橋公園へ夜桜吟行だと言うのに、
私の結果は勿論、惨憺たるものとなってしまった。

「いやはや、遅れました」
と、先生に挨拶した時、ふんわりと、夜風に漂って来たのは、酒の香り。
寒さしのぎに、コップ酒でも飲んでいらしたのだろう。
花見の匂いだな、と思った。

【天候】
終日、穏やかな快晴。
計画停電も今週は見送り。
花粉の飛散量は多いけれど、駘蕩とした空気。

1186声 春の職員室

2011年03月31日

日増しに、気温が暖かくなっている。
計画停電の実施見送りも続き、且つ、
春休み期間と言う事も有り、巷には駘蕩とした空気感が漂っている。

昨日は、自分の出身学校へ行く用事があった。
仕事であるが、行く日を、いささか楽しみにしていた。
玄関から入り、ぺったんこの来客用スリッパをつっかけて、
廊下を歩いてみた。
建物は変わっていないのだが、やはり、当時より随分と狭く感じた。
静まり返っている廊下から、校庭の桜並木が見えたが、
未だ桜は咲いていなかった。
芭蕉の句。

「さまざまのこと思ひ出す桜かな」

まさに、そんな趣がであった。

職員室の脇に、山村暮鳥の詩が掲示してあった。
その昔、山村暮鳥が代用教員を勤めていた学校なのである。
在学当時は、「ぼちょー」と言われても、
その語感の面白さしか残らなかったが、
青年になってから、この同郷の詩人の作品に、感銘を受けた。
日当たりの悪い、壁の隅っこに掲示してある暮鳥の詩を、
卒業した後、読み返しに来る子供がいるかも知れない。
そう言う光景が、連想された。

職員室の扉を、ゆっくりと開けた。
その「ガラガラッ」と、引いて開ける扉の音と手の感覚が、
小学生時分を鮮明に、思い起こさせた。
私の在学当時は、職員室の扉を開けると、いつも、
煙草の紫煙が渦巻いていた。
出て来たのは、煙草の紫煙ではなく、
私よりも随分と年若な、女性の先生だった。
扉を開ける際、反射的に、「しつれいします」と、大きな声が出た。
教育ってのは、体の奥底に染み込んでいるものである。
今時分の先生方の服装ってのも、随分とお洒落になったと、感じた。

【天候】
終日、快晴。
午後より風強く雲多し。