日刊鶴のひとこえ

この鶴のひとこえは、「めっかった群馬」に携わる面々が、日刊(を目指す気持ち)で記事を更新致します。担当者は堀澤、岡安、すーさん、坂口、ぬくいです。この5人が月替わりで担当しています。令和6年度は4月(ぬ)5月(岡)6月(す)7月(堀)8月(坂)9月(ぬ)10月(岡)11月(す)12月(堀)1月(坂)2月(ぬ)3月(岡)の順です。

1426声 ワインのジンクス

2011年11月27日

新宿駅を出て、高島屋の地下でお弁当を買ってから、新宿御苑を目指す。
歩く事およそ15分で、御苑入口の門へ到着したが、すでにワインの酔いで、
私たちの数名は、ほろほろと好い気分になっている。

「卯浪俳句会、卯浪俳句教室合同吟行句会」
今日はその為に、吟行地である新宿御苑に、前橋教室の仲間と先生と一緒に来た。
前橋から出て来ると言う事も有り、我が一団は、小旅行的賑わいである。
私自身、新宿御苑へは初めて訪れたが、都心とは思えぬ豊富な自然に、いささか驚いた。
あまねく午後の日の満ちた、冬の苑内は、芝生全体が大きく日向ぼこしていた。
池に浮く鴨の絵を描いている人、紅葉の写真を撮っている人。
レジャーシートに寝ている人、そして、ぼーっと突っ立って俳句を作っている人。
様々な人間模様が見られたが、風景全体が、ゆったりと流れていた。

そうこうしている間に、句会の時間が迫り、句会場まではタクシーで行く事にした。
歌舞伎町の真中あたりで降車し、スマートフォンのナビを便りに路地を何本も間違えつつ、
何とか句会場へ到着。
冷や汗かきながら句を選別、投句し、どうにか句会に参加する事が出来た。

関東地区の仲間が参加していたのだが、私が末席に籍を置く前橋教室は、
概ね好成績なようであった。
私は、運よく当日の大特選を頂く事ができ、選者先生の揮毫色紙や、
伝統俳句協会のカレンダーを頂けた。

帰路。
ささやかなる「お疲会」で杯を開け、更に缶麦酒を買って列車へ乗り込んだ。
ワインを飲んでから作った句が、特選に入っていたので、
何だか変なジンクスめいたものが、自分の胸の中に出来てしまった。
しかし、吟行のたびに、ワインを飲んでから句を作っていたら、
俳句以外に中毒しそうである。
これから、晩酌は麦酒でなくワインに変えようかしら。

【天候】
終日、冬麗。

1425声 土曜の午後の教室

2011年11月26日

慌ただしく電車からホームへ飛び出して、西日暮里駅を出て向かったのは、「開成高校」。
勿論、学業の用事ではなく、俳句の用事である。

鋭くも爽やかな、剣道部の声を聞きながら、校舎の階段を昇り、
句会場である教室の扉を開ける。
教室には、俳句部員であろう詰襟の高校生が数人おり、
二、三のかたまりになって談笑していた。
私服の私は、服装のみならず、年格好全てにおいて浮いていたが、
一先ずは席へついて大人しくしていた。
他の俳句部員や俳句部OBである大学生、そして先生がみえて、今日の参加者が揃った。
これから始まるのは、当然ながら、句会である。

「石田波郷俳句大会」の縁で、開成高校で開かれている月例の句会に誘っていただいた。
開成高校は俳句甲子園でも御馴染の、強豪校である。
自分よりも年下、それも年齢の半分くらいの俳人と句会をするのは、初めての経験であった。
とても新鮮で、良い刺激をもらってきた。
「新鮮」なのは、勿論、俳句もそうだし句会自体もそう。
「大きな声で、はっきりと返事をする」
句会の際に、そんな単純な事が出来ていない大人が多い。
教室に響く、彼らの、清々しい声を聞いていてそう感じた。

大人の私は、果たして、大きな声ではっきりと返事が出来るかどうか。
気をもんでいたのだが、いらぬ心配だったらしい。
なぜなら、あまり句が選ばれなかったからである。

【天候】
終日、冬麗。

1424声 忘年の効用

2011年11月25日

「さて」
こうやって、大袈裟に気合いを入れなければ書き出せないのには、理由がある。
この文章を本来書くべき日は、金曜日。
書いている、いまは、月曜日。
つまり、週末に書くべき三声(三日分)が休止していたである。
それを補う為の労力を考えれば、一つとならずため息も漏れ、
大袈裟な気合の一つも入れたくなる。

「勤め先の忘年会」
まず、休止していた金曜日は、そう言う単純明快な理由だった。
「伊香保温泉一泊二日」
と言う、群馬県西毛地域ではごく一般的なコースであった。
紅葉の映えている露天風呂に浸かり、御膳の夕食をつまみながら、
冷えた麦酒など味わっていると、社会的な自分の位置が、もう「若者」側にいない。
と言う事を、しみじみ感じた。

宿泊した旅館の露天風呂には、楓の木が数本あり、薄く紅葉していた。
伊香保温泉の紅葉は、もう散り始めている筈なのに、温泉熱による為か、
綺麗な紅葉が見られた。
これも、温泉の効用のひとつであろう。

この景色で、ひとつ俳句など。
そう言う気持は、起こらなかった。
明日、明後日と、俳句の用事で東京に出掛ける事を思うと、
少しでも脳を休めておこうと思った。

【天候】
終日、冬晴れ。

1423声 土の中の無名

2011年11月24日

「天明の浅間山噴火」
と言えば、群馬県で義務教育を受けた人ならば、知っている人も多い。
天明三(1783)年、浅間山が大噴火し、火砕流などの火山災害によって、
多くの人が命を落とした史実。
群馬学リサーチフェローの中には、この事を研究している方が居り、
先日、その中間報告を聞く機会があった。
その中で、当時の資料として、地中に埋まっていた石垣の写真があった。
場所は、現在の長野原町役場付近。
道路工事の為に掘り返していたら、地中から、石塔やら石垣やらが出て来た。
直ぐリサーチフェローの方に連絡が入り、現地へ行って調べて見ると、
どうやら、天明の噴火で流れて来た火砕流で埋まったしまったものらしい。
その写真をみるに、地中にある石垣などは、およそ二百年以上も火砕流に飲まれ、
地中に埋まっていたにも関わらず、堅牢な姿を留めていた。

国内の旧所名跡に現存している、城壁や石垣など、時代を経てもびくともしない。
その堅牢な造りがほぼ、無名の石工たちの仕事である事が、すごい。
この長野原の地中から出て来た石垣を築いたのも、おそらくそうであろう。
「秀作」と「名前」
と言うものを、もう一度、天秤にかけてみよう。
写真の中の、あの泥だらけになりながらも、しっかりと、
そして二百年以上も地中に建っていた、あの石垣を見て、ふとそう感じた。

【天候】
終日、穏やかな冬晴れ。

1422声 勤芸感謝

2011年11月23日

「傍を楽にする」
つまり、「働く」とは、傍に居る人を楽にすること。
なんて、言えて妙な記事を読んだ事がある。

今日は勤労感謝の日。
などと言う書き出しが、「傍楽」の引用でいささか胡散臭くなっているが、
勤労感謝の日なので、ひとつ、大目に見てほしい。

そして、いま、速報で報じられているのは、立川流家元の訃報。
窓の外。
冬空に満つるあまねき日を眺めながら、噺家としての働きを、思っている。

【天候】
夕方まで晴れ。
夕方より雲多く夜半まで一時雨。

1421声 湯屋と拍子木

2011年11月22日

湧き出るように、二日酔いに効く胃腸薬のCMがテレビに増えて来た。
忘年会シーズンの序盤戦、胃腸薬の飛ぶように売れる時節なのであろう。
胃腸薬のCMならいいが、増えてもらっては困るのが、火災、である。

冬季。
特に年末から年始にかけては、火災が増える。
と言う話を、聞いた事がある。
実際の統計を確認した訳ではないのだが、この時期。
下町の銭湯などに浸かっていると、夜道の路地から、
拍子木を打つ音などが聞こえて来るので、やはり、火災が多いのであろう。

郊外の方では、「火の用心」の啓発に、鐘を打ち鳴らしながら消防車が巡回している。
「カーンカーンカーン」
この音の方が馴染み深い。
しかし、俳句などをやっている身からすれば、やはり、湯屋と拍子木。
てぇ組み合わせに、オツを感じ、詩情をくすぐられる。
いま、群馬県内で、この組み合わせが成立する地域が、果たしてあるのだろうか。

【天候】
終日、冬晴れ。

1420声 風雲

2011年11月21日

一雨来たら、急速に冬の空気に入れ替わり、朝晩の冷え込みがいっそう辛い。
青紫色の山並みに、じっとして動かぬ雲。
すっかり、冬の空になってしまった。
朝起きて、赤城山に千切れ雲の塊、所謂「風雲」を見つけると、
午後から吹き荒れる空っ風を思い、一寸、ため息が出る。

群馬県山間部では、既に降雪が珍しく無くなってきた。
来月の冬至まで、丁度、一月を数える。
すでに、クリスマスやら何やら、巷もいよいよ落ち着かないが、
冬至を過ぎる頃には落ち着いていたい。

風雲の少しく遊ぶ冬至かな(石田波郷)

今年こそは、こんな心境で迎えたいものである。

【天候】
終日、冬晴れ。

1419声 冬の虹

2011年11月20日

午後になって、突如として空っ風が吹き出す。
今日はそんな、上州の典型的な冬の天気であった。

赤城山の麓へ向かう途中、なだらかな稜線の前に、虹が立っていた。
夕焼けの中、街の上に立つ冬の虹は、色彩が澄んでおり綺麗だった。
今年初めての忘年会へ伺って、酒肴を頂いた。
主催の方とは、新年会以来の再会だったので、およそ一年ぶり。
宴もたけなわになり、さてこれから。
と言うところで、最寄駅発最終列車の時刻となり、後ろ髪を引かれつつ辞した。

水上方面から来る列車は、日曜日と言う事も有り、乗車した車両に乗客は私のみ。
酔眼朦朧としつつも、車窓に瞬いている渋川市街の灯が綺麗だった。
つい先程、暗い夜道を駅へと向かって歩いてる時に見た、冬銀河ほどではないが。

どうにか新前橋駅で降りられたので、ひとまずは、大丈夫。
駅前にある、居酒屋の看板がやけに眩しい。
帽子を深くかぶって、通り過ぎた。

【天候】
朝より冬晴れ。
午後になり、風雲と空っ風。
夕方頃、一時小雨のち赤城山方面に虹。

1418声 銭湯経由女子大行

2011年11月19日

「ここも駄目で、あそこも駄目」
階段を駆け上がっては、フロアを調べ、無い事が分かると、また上の階へ行く。
それが三階だったか、四階だったかは焦り過ぎていたので、記憶が定かではないが、
ひとまずは、手遅れになる前に見付かってよかった。
男子便所が、である。

ここが女子大なので、それもそのはずである。
女子大などと言う不慣れな場所に足を踏み入れたので、
一挙にトイレが近くなってしまったのかも知れない。
この不慣れな場所に、勿論、忍びこんだ訳ではなく、「群馬学」の用事で訪れた。 

昨年から活動してきた「群馬学リサーチフェロー」と言う活動も、いよいよ大詰め。
来年三月の研究成果発表を前にして、中間報告会が行わる日が今日だった。
冷たい雨降りしきる夕方、他の仲間と先生を前に、
この一年携わってきた銭湯関連の事を報告して来た。
まだまだ内容をテコ入れしないと、とても「研究成果」とは言えない内容だったが、
一応、報告を終えて、帰ってきた。 

帰り際。
夕闇の校舎ロビーで、大学の女学生であろう若者が、四五人、談笑していた。
彼女等の横を通り過ぎ、銭湯に深く関わって行った経由地に、
女子大があるとは、なんとも不思議な心持になった。
車のエンジンをかけ、帰路の途中、銭湯を経由して帰ろうと、ふと思った。

【天候】
終日、冷たい雨が降り続く。

1418声 波のまにまに

2011年11月18日

里山では紅葉も散り、人の踏まざるところへ、
風に吹き集められた落葉が溜まってゆく。
巷の路地を行くと、垣根の山茶花が咲かせた、
暖かそうな花が目に付いた。
11月も後半になり、いよいよ、年の瀬が近づいて来た感がある。

そして今年もまた、忘年会の波が押し寄せてくる。
その波に飲まれ、且つ溺れ、もがきながら気付けば、
大晦日の岸辺に打ち上げられている。
と言った具合に、毎年、どうしてもなってしまう。

飲まれゆく波のまにまにも、句作をしていた。
いま、去年作った冬の句を見返しているのだが、
秋ほどではないにしろ、結構な数を作っていたようである。
俳句帖には日記みたいなところがあって、その日、
どこで何をしていたかが、句を見ればなんとなく分かる。
句に前書き、つまり、「11月23日勤労感謝の日に、高崎観音山にて」
などと書いてあれば、明白。

しかし今年は、句帖に冬の句がほとんど無い。
その現状を目の当たりにし、少しは、日記風な句も作っておこうと思った。
もし、岸辺へ辿り付けなかった時の為に。

【天候】
終日、冬晴れ。
明日から下り坂の為か、夜半の冷え込みは緩い。

1417声 ワインと流星

2011年11月17日

冴えている。
いよいよ冬の夜空が澄んできて、
「冷える」と言うよりも「冴える」と言う様相になって来た。
これからは、潤むように瞬く星が、とても綺麗な時期である。

しし座流星群。
今年も来ているらしく、今日の夜半から明日の未明にかけてが、観測のピーク。
と言う事を、今朝、ラジオやテレビで知った。
その活動が活発だった、2001年に、この流星群を初めて観た。
埼玉県の山中だったが、小一時間くらいの間に数え切れないほど、星が降っていた。
確かに、「流星群」だと感じた。

丸10年が経過した今、もはや、戸外で夜の底に立ち、流星群を眺めよう。
と言う事が、怖くてできない。
襲い来る眠気と寒気に、到底勝てる気がしない。
しかしながら世の中には、今日解禁したボージョレ・ヌーボーを嗜みつつ、流星群を観よう。
なんて言う趣向があるらしい。
こちらも負けじと、熱燗飲みながら、チラリとカーテンくらい開けてみようと思う。

【天候】
終日、冬晴れ。
北風強し。

1416声 記憶から

2011年11月16日

近々、銭湯関連の発表があるので、その為の資料をいま、まとめている。
一向に捗らないのは、現状の厳しさを痛感しているからでもある。

この一年で、私の知るところにおいて、二軒の銭湯が暖簾を下ろしてしまった。
何れも、歴史ある銭湯で、その一軒には巨大なペンキ絵があった。
歴史的な建造物が、もう少し身近に言うと、地元のよりどころが、無くなる。
と言うこと。
時を経て、記憶からどんどん薄れて行ってしまう。
それは、私の、ではなく、市井の、である。

【天候】
終日、雲多くも冬晴れ。
風強し。

1415声 綿虫と雪

2011年11月15日

ツイッターにはタイムラインと言うものがあって、
フォローしている人たちのツイートが断続的に流れている。
唐突にこんな事を書いても、ツイッターと言うサービスを利用していない人にとっては、
「何のことやら」、であろう。

「ツイート」
つまり、知り合いが発信した「つぶやき」が、携帯電話だかパソコンだか、
自分が見ている画面上で見られるのである。
そこでつい先程、「草津は雪が降って来ました」と言うツイートを見掛けた。
画面上でその後の状況を見ていると、慌ててチェーンを巻いたり、
路肩でタイヤを履き換えている人までいたらしい。
朝刊の天気予報では、群馬県山間部に雪マークが付いていたが、
その予報が的中し、本日、いよいよ冬将軍が群馬県に参られたと言える。

立冬から一週間が過ぎ、街中にはコートを羽織っている人を、
ちらほら見かける様になった。
先日、野山を吟行している最中、「綿虫」を発見した。
その場に居た一堂、捕まえた人の指先を凝視して、小さな綿虫の生態を観察した。
北海道では「雪虫」と言い、この虫を見ると、いよいよ厳しい冬到来を思う。
と言う事を、テレビドラマの「北の国から」で知った。
冬到来の風物詩である綿虫たちは、因果な事に、
冬の到来を待たずに死んでしまうらしい。
来週の今時期には、もうあの綿虫たちはいないのか。

【天候】
終日、冬晴れ。
寒気が列島に入り込んできている様子。

1414声 紅葉探勝合宿二日

2011年11月14日

起きて、障子を開け放つと、山の端に白じらとした月が浮かんでいた。
空は薄く雲を引いて、まだ青色が整っていない朝。
鏡面のような湖面に、山紅葉が燃えていた。

欠伸をしながら、窓際の景色をぼんやりと眺めていると、
見覚えある服装の人が一人。
紅葉の下に突っ立って、歩いては手元に書き、歩いては手元に書き。
あの奇妙な動作は、紛れも無く「俳人」と言う奴である。
仲間の一人は、もう朝の榛名湖畔を吟行しているではないか。
部屋に居る先生と私と二人で、その光景を眺めて感心した。
感心しつつ、不精なこの部屋の人間は、窓の景で俳句を作っていた。

朝食を食べて句会。
宿を出て、伊香保まで下り、水沢観音で合流した仲間と一緒に句会。
この二日、伊香保温泉は随分と賑わっている模様だった。
車窓からその光景を眺めつつ、瓶ごと昨夜の残りのワインを飲んでいるのは、
やはり先生だった。
箕郷の鳴沢湖まで足を伸ばし、水鳥や鴨などを眺めながら吟行。
水面に返る午後日は、金色に輝いていて、漣も鴨もその光と融和して行く景色は、
紅葉とはまた違った趣があった。
止めに、渋川市内まで戻り、ファミリーレストランで最後の句会。
心地好い疲れを感じつつ、先生宅まで戻って解散。
自分の句は兎も角、佳句と沢山出会えた事が、一番の御土産となった。

【天候】
朝より雲多くも晴れ。
夕方より、3分ほど強く雨降って直ぐ止む。
暖かく、奇妙な天候であった。

1413声 紅葉探勝合宿初日

2011年11月13日

「秋の空、ですよねぇ」
まず最初に、聞いてみた。
「どう見ても、冬じゃねぇよなぁ」
その回答を得て、一安心した。
これから一日作る句が、秋か冬か、微妙だったからである。

立冬は過ぎたが、高い空には薄い雲が棚引いており、
薄紅葉の平野部には、まだ秋の気配が濃い。
そんな、秋晴れの空の下、子持山の麓にある先生宅から、
伊香保を経由して榛名湖へ、一泊二日の俳句合宿へ出発した。

運転手は、参加者の中で、たまたま一番大きい車に乗っていた私となり、
自分含め四名の吟行である。
伊香保温泉街へ到着し、まずは紅葉を見に行く。
道中ではや、先生は缶麦酒を空けている。
すれ違うのも困難な人波に紛れて、句を書き留めてゆく。
温泉街の下で、新蕎麦をたぐってから、榛名湖へ登る。

着いてすぐ句会。
そこからはもう、枯野を吟行して句会。
紅葉の湖畔を吟行して句会。
夕食後に題詠で句会。
晩酌後に部屋で酔っ払いつつ作った句が、一番好成績だった。
それが、腑に落ちなかった。
紅葉の写生句を、それこそ散る紅葉の様に、沢山作ったが、
一つとして光る句が無かった。
酔いによって気が紛れたのが、いささか好かったのかもしれない。
そう考えれば、能動的に得た句よりも、受動的に得た句の方が、
確かに結果的に好く出来ていた。
とすると、午前十時から缶麦酒を開けている先生は、緻密な計算の結果。
ではなく、ただ単に、飲みたくて飲んでいるだけであろう。

夜半。
近くに住む、仲間の女流俳人の方が酒を持って来てくれた。
仕事が終わってから、霧の渦巻く榛名湖へ来るとは、頭が下がる。
そして、句会も飲酒もせずに帰って行くと言う、素晴らしい句友である。
その晩は、飲み疲れ、と言うよりも脳が疲れて、
横になると直ぐに体が、蒲団に沈む込んで行った。

【天候】
終日、冬晴れ。

1412声 榛名合宿下山漫筆

2011年11月12日

この二日ほど榛名湖で冬籠

などと、思考回路の目盛りが五七五に合わさっているので、
そのリズムで言語が出て来てしまう。
冬籠していたのは、俳句を作る為であって、
定期的に行っている合宿に参加して来た。
榛名山より下山して来た今日一日も、周辺でさんざん俳句を作りながら帰って来た。
その反動と解放感から、度を越した晩酌となってしまい、手元が覚束ない。

よって、その報告は明日にした方が得策であろう。
一面の紅葉山が目に焼き付いていて、いま尚、眼球が紅く染まっている様である。
今回、紅葉の句を山ほど作って来たが、自身の作はどれも面白味の無い句ばかりだった。
しかし、句の出来不出来よりも、自然の中に入り、自然から得た感動を胸に残せただけでも、
非常に満足している。
「ぽとっ」と、一葉の紅葉が落ちる様に、いつかその感動を俳句に出来る日が来るかも知れない。
それにしても、榛名湖の湖面に映る紅葉山の、あの燃える様な色彩は、忘れがたい光景である。

【天候】
終日、冬晴れ。

1411声 トルコから

2011年11月11日

テレビから流れるニュース映像に一瞬、息が止まった。
「ぽん」、とそこに現れたのが、見覚えのある顔と名前だったからである。

その女性とは、二年前に面識が一度ある程度だが、深く印象に残っていた。
自身初の著書を、初めて新聞紙面に取り上げてくれた人である。
紙面では大きく、そして正確な筆致で著書周辺の事情が報道されており、
感謝の念を抱いていた。

ニュースは伝えた。
「トルコ東部ワン県で発生した地震により倒壊した、
バイラムホテルの下敷きとなっていた日本人女性が、ほどなく無事救出されました」

その後に、同僚の男性の訃報が報じられた。
助かった事実に安心したが、それよりも、国際支援の場で活躍する彼女の志に敬服した。

【天候】
終日、冷たい雨が降り続く。

1410声 菊日和

2011年11月10日

自宅の前に、一つ道を隔てて、空き地がある。
以前は建築関係の会社が資材置き場に使っていたのだが、
その会社もこの土地から退いてからは、手付かずに雑草が生い茂っている。
以前の会社が、フェンスを張りめぐらせたので、雑草が道に被さって来る事は無いが、
フェンスの中は、「草の海」と言った具合になっている。
地面とフェンスの隙間から猫が入って行くと、
直ぐにその姿が見えなくなってしまうくらいである。

草が生い茂っていても、別にどうと言う事は無い。
これからの空っ風の季節は、むしろ砂埃がたたなくて良いのだが、少し前は虫で苦労した。
その虫は、おそらくカメムシなのだが、天道虫くらいの大きさで全体が茶色い。
こいつ等がこの秋に大量発生して、玄関やベランダに大量にくっついていたり、
あるいは死んでいたり。
天気の好い日に、真っ白いシーツなど干そうものなら、墨汁を飛び散らしたように、
点々とくっついている。
カメムシ特有の臭いを発するので、やたらに掃えず、厄介なのである。
それも近頃、立冬を過ぎてからようやく落ち着いて来たので、一安心している。

私の推測では、この虫の大量発生の所以は、草の海に大量に生えている、
背高泡立草にあると考えている。
それがこいつ等の寝床になっているのではなかろうか。
この草の海に、どこから種がこぼれて来たのか、最近、菊が咲き始めた。
和歌の世界で、たんに「菊」と言えば白菊の事だが、白い花はあまりなく、
黄色や紅色や桃色など、多彩な色の菊が咲いている。

虫柱立ちゐて幽か菊の上   高浜虚子

虚子の句にあるように、あまねく夕日が満ちた草の海の中、
菊の上に、幽かな虫柱が立って揺れている光景は、荘厳な印象を受ける。
菊には、そう言う不思議な存在感がある。

【天候】
終日、冬晴れ。