日刊鶴のひとこえ

この鶴のひとこえは、「めっかった群馬」に携わる面々が、日刊(を目指す気持ち)で記事を更新致します。担当者は堀澤、岡安、すーさん、坂口、ぬくいです。この5人が月替わりで担当しています。令和6年度は4月(ぬ)5月(岡)6月(す)7月(堀)8月(坂)9月(ぬ)10月(岡)11月(す)12月(堀)1月(坂)2月(ぬ)3月(岡)の順です。

1162声 鏡の顔

2011年03月07日

昨日は、埼玉県は熊谷市の銭湯へ行って来た。
熊谷の市街地には、現在、伝統銭湯が3軒残っている。
列挙すれば、「見晴湯」、「朝日湯」、「桜湯」、である。
その中、定休日の1軒を抜かした、2軒へはしご湯。

夕暮から黄昏時に訪問したのだが、2軒とも盛況であった。
特に、JR熊谷駅より、およそ徒歩3分と言う、
好立地に居を構える、桜湯。
夕方になると、入口の前の歩道に、
自転車が折り重なるように連なっている。
群馬県内では、前橋市の「重兵衛湯」で、その様な光景が見られる。

2軒とも、ペンキ絵を有する、素晴らしい銭湯だった。
客足の途切れる間が無かったので、
写真撮影などを番台へ申し出る事もなく、帰路に着いた。
そして、家へ帰ってから、とどめの入浴。
短時間で都合、3回入浴した事になるが、体は至って健康。
の筈もなく、乾燥肌が、更に乾燥して、カサカサになってしまった。
おまけに、体温の調節機能が馬鹿になったしまったのか、
今日一日、体温調節がうまく出来ず、甚だしい、倦怠感であった。

黄昏時に、知らない街で知らない人と、湯船に浸かっている時間。
たくましい湯気がたちこめる、浴室。
仄明るい蛍光灯の下。
結露した鏡を手でこすると現れる、自らの、顔。
「大丈夫か、俺」
一寸、弱気に感傷。

【天候】
朝から雨。
山間部では、雪からやがて霙。
夕方には降り止み、冷え込み甚だ強し。

1161声 沿線風景

2011年03月06日

二日酔い。
ではないのだが、アルコール分解の果てに辿り着く虚脱感、
を色濃く感じている。

昨夜は、送別会だった。
春と言うのは、出会いと別れの季節。
やはり私の周りでも、昨日、ひとつの別れがあった。
新たな門出を迎える当人は、前橋市在住のY氏。
新天地となるのは、東京都。
転勤や就職などではなく、入学。
つまり、Y氏は4月から学生になる。

「40歳からの再スタート」
なんて、言っていらしたが、柔軟なY氏ならばきっと、
東京の水にも直ぐに馴染めるだろう。
春からの、新一年生を、郷里に逼塞している私などは、
羨望の眼差しで見送った。

社会生活を営む人の人生に、路線図があるならば、
その路線図は、年齢ともに、小さくなって行く。
あるいは、小さくなった様に、大半の人が感じているだろう。
だからこそ、なるべく、乗り換えは少なく、座席に座ったまま、
現在の列車に乗車していたい。
その中、席を立った一人の精悍な若者。
それが、Y氏である。

Y氏は途中下車して、別な路線へ乗り換えた。
もちろん、入手困難な乗車券をしっかりと、握りしめている。
今からY氏が乗車する列車の車窓には、
素晴らしい沿線風景が広がっている。
缶麦酒片手の私は、そう願っている。

【天候】
終日、穏やかな快晴。

1160声 自筆原稿にもえそめ

2011年03月05日

今朝の朝刊。
ひとつの記事に、目が止まった。
なんでも、米国オハイオ州在住の男性が、
萩原朔太郎の自筆原稿を、前橋市に寄贈。
と言う事らしい。

寄贈主はおよそ50年前に、留学生として日本に滞在した時に、
この原稿を入手したと言う。
留学生時代に、「月に吠える」の翻訳を手掛けており、
前橋市にも訪れていた事があると言うから、縁が深かったのであろう。

私も前橋文学館で、展示されている自筆原稿を見学したのとがあるが、
なるほど、紙面に掲載されている原稿と、字体が酷似している。
達筆ではないが、神経質そうに、文字を刻みこんでいる。
今回の寄贈原稿は、「月に吠える」冒頭の詩である、
「地面の底の病気の顔」の、前半部分10行ほど。
自筆原稿の原稿では、朔太郎の推敲の跡が確認でき、とても興味深い。

それは、「萌えそめ」の、「萌」と言う字を平仮名の「も」に直したり、
「あはれふかく見え」の、「見」と言う文字を、やはり平仮名に直したりしている。
確かに、ほんの「一文字」で、随分と詩の輪郭と言うのは変わる。
俳句や川柳などの短詩では、尚更、だと感じる事が多い。

朔太郎が悶々と原稿を推敲している時分から、
「僕は一躍して詩壇の花形役者になつてしまつた。」
と言うところまで、そう長い道のりはない。
それを思うと、今回の原稿は、やはり、とても興味深いもの、と思う。

【天候】
終日、穏やかな快晴の一日。 

1159声 3月の平日の昼間

2011年03月04日

昼間、である。
郊外の幹線道路を何気なく運転していると、
視線が釘付けになった。
そこは、カラオケ店。
店舗入口脇の駐車場に、夥しい数の自転車が連なっている。

その自転車の大半。
後輪の泥除けに、鑑札シールが貼ってあるので、
学生の自転車だと言うのが一目瞭然。
3月の平日の昼間。
群れをなして街にいる学生。
と言えば、十中八九、卒業生だろう。

卒業の解放感。
級友と別れる寂しさや、新生活への期待。
様々な感情が交錯し、兎も角もう、馬鹿騒ぎをしているのだろう。
一寸、羨ましく思いつつ、進んで行く車は、いやが上にも、
私を現実世界へと運ぶ。
すると、前方。
随分と安全運転の車が、一台、二台。
よく見れば、路上教習中の車、である。
3月の平日の昼間。
路上教習中の車と言えば、十中八九、卒業生。
だと、これは言い切れないかも知れないが、おそらく間違いない。

桜が咲く頃には、彼らは新しい生活を始めるのだろう。
郷里の群馬県に残る者、そこから離れてゆく者。
このY字路を、進む時。
どちらの路でも、大丈夫。
必ず、桜は咲いているのだから。

【天候】
終日、雲多くも晴れ。
やや風強く、朝晩特に冷える。

1158声 雛喫茶

2011年03月03日

今日は雛祭り。
っても、女兄弟や子供を持たない私にとっては、
縁の薄い行事である。
その薄い縁が、過去に一度だけ、結ばれた。
遡る事、2、3年前。
高崎市の雛祭りを、取材に行った事があった。
新町地区で毎年行われている、「新町ひな祭り」、である。

この雛祭りは、町おこしの一環として、新町商工会が始めた。
行在所公園を拠点とし、商店街の店舗や、街中の各商店に、
雛飾りを展示し、来客をもてなそうと言うもの。
例えば、肉屋さんのショーウインドー。
秤の横に、艶やかな雛飾り。
和菓子屋の入口に、三人官女と五人囃子。
電気屋さんの店内には、掃除機の横に、豪奢な段飾りの雛人形。
など、街中のあらゆる場所、それは得てして市井の何気ない場所に、
かくも壮麗なお雛様がいらっしゃるのである。

この取材の時ばかりは、雛人形がある生活と言うのも、
良いものだな、と、感じた。
それは、男の私よりも、女性の方が感慨深いのだろう。
取材の休憩で立ち寄った、一軒の古い喫茶店。
午後三時の店内は、珈琲の香りと駘蕩とした空気が漂っている。
斜向かいの席には、80がらみの御婆ちゃんがひとり。
珈琲とアップルパイを食べながら、カウンターに飾ってある、
雛飾りを見つめている。

伝統を継ぐ事。
それは、大切な事、だと、その時強く感じた。
人の良さそうなマスターが、ブレンド珈琲を運んで来た。

【天候】
終日、雲多くも晴れ。
気温は一桁で、寒い日が続く。

1157声 点眼依存症

2011年03月02日

もう、途中から回数さえ、数えるのを止めてしまった。
そしてまた、こぼれ落ちる、泪。
泪を流しているのは、別に、寂しい訳ではない。
悲しい事もないし、嬉し事も無い。
もう、四六時中、目薬。
投与しまくっている、のである。

雨の降った翌日は、花粉の飛散量が多い。
と言う花粉情報は知っていたが、今は、まだ3月初旬。
油断していたら、今日。
一挙に、来た。

雨の降った翌日で、晴れて風の強い。
と言う、花粉飛散にとってはまたとない好条件なので無理もないが、
我が花粉症の諸症状が、一挙に噴出した。
特に、目。
目が、眼球が、目の球が、痒くて痒くて、たまらない。
慌てて薬局へ駆けこんで、一番安価な目薬を購入して、すぐに投与。
それが癖になって、終日、眼球が目薬に溺れている始末。

眼球を取り出して、シャワーで洗えたら、どんなに気持ち好いだろう。
などと思いつつ、また、点眼依存症の禁断症状が、忍び寄っている。
今月は、第16回俳句ing箕郷梅林などの山へ行く予定があるが、
甚だ不安である。
不安と言うか、もう、恐怖とさえ思う。
そしてまた、点眼。

【天候】
終日、風強くも、快晴。
風吹いて寒く、花粉の飛散も多い。

1156声 胸を張って背中を丸める

2011年03月01日

雨のまま、今日から3月。
年度末って事で、世間が何かと慌ただしい季節。
個人的には誕生日月なので、またひとつ年を重ねるのかと、
感慨深い月である。
私など、もうこの年になれば、誕生日など嬉しむべき日でなく、
忌むべき日である。

「若年寄」だとか、「老成している」。
はたまた、「爺臭い」などと、知人から言われている。
それは、若い時分から、私の趣味嗜好が、
「銭湯」や「俳句」などに拘泥している事に、起因している。

自分が「若い」と言う立ち位置で、それらの対象と接してきたが、
これから先、「そんなに若くもない」と言う立ち位置に移行してゆく。
もっとも、それはごくゆっくりとであるが。
そして、その立ち位置で接する、銭湯や俳句、友人知人、未だ見ぬ人たち。
それら数多との関わりの中での、自分、と言う奴に、少々興味が有る。

「まだ若い」と、胸を張るのか。
「もう若くない」と、背中を丸めるのか。

恋猫の恋する猫で押し通す (永田耕衣)

と言う手もあるな。

【天候】
朝より曇天。
昼から夕方にかけて、一時雨。

1154声 異文化交湯

2011年02月27日

「潔く入れ」
語気の荒い言葉が、飛んできた。
その言葉に背中を押される様に、浴槽に片足突っ込んでいた兄弟。
決死の思いで、浴槽の中へ、体を埋めて行く。

それは、私が先程、高崎の銭湯で見た光景。
親父に連れられて銭湯へ来た、兄弟である。
大人なら兎も角、銭湯のあの熱い湯船に浸かる際、
子供は随分と大変であろう。
最近、大人でも躊躇しつつ浸かってゆく御仁を、多く見かける。
そこへ来て、この頑固な親父さんは、それを許さない。
子供には、ちと酷だと思ったが、反面、古風な教育方針だと、関心した。
それは、この家族が、日本人でなく、
中東系の外国人だったから、尚更、である。

一般的に、銭湯へ来る外国人はマナーが悪い。
なんて、言われているが、一概にそんな事も無い、と感じている。
私も、群馬県内各地の伝統銭湯へ入浴しているが、
湯客に、少なからず外国人の方を見掛けた。
そこではむしろ、日本人のマナーが疑わしい局面に、
出遭う事の方が多かった。

外国人における、「マナーが悪い」。
と言うのは、異文化である銭湯文化を、知らない者であろう。
日本人における、「マナーが悪い」。
と言うのは、銭湯文化を知りつつも、それにあえて準じない者、だと思う。
どちらが性質悪いかと選べば、後者を挙ざるを得ない。
私が今日見た外国人の様に、日本人よりも日本人らしく銭湯に入り、
そこで、子供の教育までする、筋の通った外国人だっている。
と言う事は、銭湯マナーの周知徹底が出来れば、外国人の潜在顧客を、
大いに呼び込める、のである。
巷の銭湯で、異文化交湯が見られる日が、もうそこまで来ている。

【天候】
終日、穏やかな快晴。
風も弱く、暖かな気候。
銭湯の瓶牛乳、平均110円。

1153声 つぶやき日和

2011年02月26日

春一番明日はたぶん良く冷ゆる

と、別に俳句にする事もない。
のだが、その言い伝えに反する事なく、今日は寒さが舞い戻って来た。
仕舞いかけたストーブを引っ張り出し、部屋に逼塞している。
100円ショップで購入した、民謡特集のCDが、軽快なBGMを奏でている。
そこに、一本の電話。

着信の相手は、ほのじ氏であった。
なんでも、「ツイッターが、用意してある」と言う旨。
遂に、自らにもツイッターの波が押し寄せて来た、と言う感慨、少々。
「でそれは、パソコンからやるものですか、それとも、携帯電話」
なんて、質問をしているくらい、高度情報化社会から取り残されてしまった、私。
回答は、無論。
「両方だよ」

なんだか、遡る事、4、5年前は、ほのじ氏に対し、
「ブログてぇものが、あるんですがね、御存じですか」
なんて、大威張りで言っていた記憶がある。
今度は、逆の立場になってしまった。

「じゃあ、つぶやいてくれ」
という言葉を残して、通話は終った。
窓の外は、霞みがかった淡く碧い、春の空。
本日、つぶやき日和。

【天候】
終日、快晴。
風強く、冴え返る。

1152声 まさかの春

2011年02月25日

今日は、東京に春一番が吹いた。
さて、いよいよ、春本番である。
とは、言えず、明日からまた冴え返るらしい。
三寒四温とは、まったく思わせぶりな気候である。

現在時刻は午前零時。
今、我家に轟々と吹きつけているこの強い風も、
春一番と言う事になるのであろう。
昼に吹く風と、夜に吹く風。
同じ春一番でも、随分と様相が異なる。

それは、「春」と言う季節全体に言えるのではなかろうか。
春昼、春日、春風。
に対して、
春宵、朧月、宵霞。
後者の方が、明らかに、ミステリアスな印象を醸し出している。
この季節を敏感に感じ取った顕著な例が、猫。
この時期、野良猫も飼い猫も、年頃となった近所の猫と言う猫は、
恋猫となって夜を徘徊する。
そして、どこからともなく、奇妙な鳴き声が聞こえてくる。

その鳴き声。
昼間、芝生上で寝転んでいた、我家によく来る、
あの可愛らしい三毛猫のものだとは、けっして、思わぬようにしている。
しかしながら、まさか、の春、である。

【天候】
終日、晴れ。
春一番が吹き、伊勢崎市では最高気温22℃以上を観測。

1151声 春の朧の中

2011年02月24日

月例句会の時はいつも、帰宅が日付変更線を跨いでしまう。
先生のお宅に伺ったら、机の上。
中央に置かれた花瓶に、神々しい、と言う形容が誇張でない程、
綺麗な猫柳が生けてあった。
勿論、春の季題なので、それも加えて、句会。

句を作る為、私は机の座からひとり抜けて、外へ出てみた。
窓ごしに、光溢れている室内が見えた。
机の周りに座っている人たち、皆、斜め上を見上げている。
句作の為に、花瓶の猫柳を、凝視しているのである。
その光景は、「猫柳教」と言う、新手の宗教のようにも見えなくはない。

遠くの山を眺めると、霞みがかっていて光がぼんやりと見えた。
音も、光も、匂いも、春の朧の中。
さて、俳句を作るには、五感を駆使して、それを感じなければならぬ。

【天候】
朝より曇り、午後より雨は降らねど下り坂。
気温は3月の陽気で、暖か。

1150声 梅と桜と私

2011年02月23日

日を追う毎に、春めいてくる。
とりわけ今日は暖かく、長袖シャツ一枚でも、
軽く体を動かせば薄っすらと、額に汗がにじんだ。
高崎市の街中では、梅が綻び始め、
淡い梅の香が風に漂っている。

そんな早春の光景を眺めつつ、若干の、焦燥感。
と言うのも、次回の俳句ingの予定が、来月の中旬なのである。
昨夜、その行程を作り終え、今日から、募集を開始する。
この暖かな気候が、調子良く続くと、それに伴って、
梅の開花も調子良くなる。
そして、来月の中旬には、早々に、シーズンオフ。
なんて具合が懸念され、だんだん心配になってきた。

今回の目的地は、群馬三大梅林のひとつでもある、「箕郷梅林」。
茶店で饅頭でも頬張りながら、梅で一句。
と言う趣向を意識しているので、そこにはやはり、
満開の梅がないと困る。
三寒四温でなく、四寒三温くらいになって欲しいと言うのは、
叶わぬ願であろう。
来月の今時分は、桜の心配をしているかも知れぬ。
向こう数ヵ月は、梅と桜と私、一進一退の攻防が続きそうである。

【天候】
終日、穏やかな快晴。
風が春めいてきた。

1149声 群馬にもパンダ

2011年02月22日

今日の午前零時頃。
無事に檻に搬送されたのは、中国から遥々、
上野動物園へやって来た、パンダ。
雄の比力(ビーリー)と、雌の仙女(シィエンニュ)と言う名前の、
ジャイアントパンダの2頭である。
3月には日本名も決定して、一般公開されると言う。

パンダで思い出すのは、フィアット社のパンダと言う車種。
ではなく、群馬県中之条町。
勿論、実際にパンダがいる訳ではないが、ある、のである。
「ぱんだ」と言う名の、居酒屋が。

店の暖簾を、数年前に一度だけ、くぐった事がある。
こじんまりとした、雰囲気の良い店で、
店内に飾ってあるパンダグッズが、平和な空気を生んでいる。
とりわけ、焼き鳥が安くて美味く、麦酒がすすんだ思い出がある。
今回のパンダの1件でもって、何か、記念イベントでもやっているかしら。
などと、思い馳せつつ、無性に焼き鳥で一杯やりたくなってきた。

【天候】
終日、穏やかな快晴。

1148声 春の釦

2011年02月21日

こう言う偶然もあるのか。
しみじみとそう感じたのは、今朝、偶然の再会を果たした時である。
年末から数えて、かれこれ、3ヶ月ぶり。
意外と近くに居たのに、私は全く気付かなかった。

今朝の事。
玄関の戸を開け、庭先へ出ると、芝生の上。
何やら、足裏に違和感を感じた。
小石でも踏んだのであろうと、足を上げて見ると、そこには、黒い釦が1個。
拾い上げて、確認すると、それは紛う方無き、私の遺失物の釦。

昨年の暮れ、である。
コートの釦を失くした、と気付いたのだが、
何処で失くしたのかが分からない。
おそらく、何度目かの忘年会の、何度目かに行った店の床あたりに、
転がっているのだろう。
などと、さして気にもせず、前釦の無いコートを着て、ひと冬越してしまった。
そして今朝、庭先の芝生の上で発見した釦が、その失くした前釦である。

釦をポケットにしまって、車へ乗り込む。
気付けばここ最近、エアコンを入れないで、走り出すようになった。
角を曲がる時に見えた、裏の田圃の遥かに聳える、榛名山。
薄く霞んでいる輪郭に、鳥が一羽、大きく旋回していた。

【天候】
終日、快晴。
ガソリン、1ℓ135円

1147声 たからクラブ

2011年02月20日

再訪である。
秩父には、先々週訪れた。
その時に入浴した2軒の銭湯へ、今日も入浴してきた。

まずは、東町の「クラブ湯」。
女将さんに前回の訪問を覚えていて頂いており、
早速、写真を撮らせて頂く。
はしご湯。
と言う事が脳裏に有り、鴉の行水で、手早く入浴を済ませる。
「俺も早いけど、あんちゃんはもっと、早いねぇ」
と、気さくな常連のおやっさん。
女将さんも、常連さんも、人見知りの無く、
他所者の私にとって、非常に心の和む銭湯である。

コートの襟を立てて、足早に、道生町の「たから湯」を目指す。
早い時間だが、相客多数でとても盛況である。
浴室へ入り、カランに腰掛けるべく近づくと、脇からコロンコロンと、
転がって来る物体。
止まって、凝視すれば、それは、入れ歯。
厳密に描写すれば、上顎の総入れ歯である。
「はぁ、わるひねぇ、ふへへ」
と、口をふかふかさせながら、入れ歯を拾うおじいちゃん。
一寸、間を置いて、そのおじいちゃんと2人して、爆笑してしまった。

旧市街に2軒の銭湯。
それは、みどり市大間々の、「高砂の湯」、「千代乃湯」に似ている。
などと、群馬県内の銭湯と照らし合わせながら、帰路へ着いた。

【天候】
終日、曇りがちなるも、穏やかな晴れ。

1146声 輝いていた時

2011年02月19日

今週末で、榛名湖の公魚釣りもシーズンオフ。
と言う話題が、昨日の雑談の中で出た。
今年は3年ぶりに結氷したので、公魚の釣客も、
久しぶりの穴釣りを存分に楽しんだ事だろう。
公魚が終われば、次に、3月上旬の渓流釣り解禁を、
待つばかりであろう。

私は久しく釣りをしなくなってしまったが、以前はしていた。
今から一昔前、渓流釣り解禁の時期に、釣りへ出掛けた事があった。
場所は、当時の倉渕村。
渓流釣りなので、狙うのは、山女、岩魚、虹鱒などの渓流魚である。
快晴の空が薄く橙色に染まってゆく、夕まづめ。
手頃な岩の上から、川面に向かって竿を振る。
糸の先についているのは毛針、すなわち、テンカラ釣りと言う釣法である。

魚の当たりは断続的にあるものの、自らの腕も相まって、
中々、釣り上げられない。
徐々に、山間から黄昏が近づいてくる気配。
ふと、辺りを見渡して、手を止めた。
沢一面に、ひとつひとつの光が、群れをなして浮遊している。
私もどうやら、その光の群れに、包まれている。
のだが、どうした事だろう、衣服には、無数の羽虫が次々に付着。
そうなのである、この羽虫は、かげろう。
いま、まさに、孵化したばかりのかげろうが、
百万匹の群れとなって川原に浮遊している。

それに呼応するように、川面では、渓流魚たちがかげろうを捕食すべく、
さざめきたっている。
一挙に騒がしくなってきた沢で、ひとり取り残されている、私。
結局、その日の釣果は、うぐいを2、3匹だったと記憶している。
それよりも、私の記憶に焼き付いているのは、あの時の沢の光景である。
西日の射し込む渓流に、無数のかげろうの羽の輝き。
川面の輝き、魚の輝き、そして、太陽の輝き。

【天候】
終日、雲一つない快晴。

1145声 不敵に笑ふ甘納豆

2011年02月18日

「余寒」と言うには暖か過ぎるが、「春めく」と言うには未だ寒い。
如月の半ばと言うのは、そんな曖昧な時節である。

そう言う気候の為か、体調も、何だか芳しくない。
そう言えば、ほのじ氏も、体調が定まらぬとぼやいていたので、
なんだかこのサイトは、半病人ばかりで景気が悪い。

じゃあ、景気付けに一杯。
と言う気持には、到底、なれない。
消化器系統、特に、胃の調子が悪いからである。
そう言う時に限って、何故か、口が甘いものを欲している。
様な気がして、今日も、レジ横に置いてあった甘納豆を、
衝動買いしてしまった。

そのスーパーは、何故、レジの横に甘納豆など置いてあるのだろうか。
と言う疑問を、買っている私には、持つベき資格が無い。
そして、甘納豆とコーラを飲んだ事が、いけなかった。

口に甘きは腹に害あり。
と言う諺を、字面そのままの意味で、思い知った。
それに伴って、坪内稔典氏作で有名な、甘納豆の連作が思い出された。
中でも有名な、

三月の甘納豆のうふふふふ    坪内稔典

その笑いが不敵な笑みに思えるのは、やはり、私の腹具合の所為だろう。

【天候】
早朝は昨夜降り残した、雨。
その後、回復し、終日快晴。

1144声 俳句の小宇宙

2011年02月17日

日本人として、快挙。
と言う旨の、報道が打たれた。
その内容は、宇宙飛行士である若田光一さんの、
ISSのコマンダー就任が決まった。
と言うもの。
どんどん私たちの生活にも、宇宙が近づいている心持がして、
ごく控えめに、心が躍った。

この「ISS」てぇのは、「国際宇宙ステーション」の事で、
そこの「コマンダー」てぇ役職は、「船長」と言う事。
つまり、これは私の大掴みな解釈だが、言うなれば、国際線宇宙駅の駅長。
そう考えると、一層、感服する。

日本中が若田さんに注目していたのは、何と言っても、
2009年の宇宙船「ディスカバリー」の時だろう。
日本人初となる、長期宇宙滞在と言う事で、連日テレビ中継などで、
宇宙からの元気な姿が映っていた。

若田さんがコマンダーとして宇宙へ行くのは、2013年。
その頃もまた、テレビ中継で、見られるだろう。
民間人が宇宙旅行できる日が来たら、
日本から初めて宇宙へ行く俳人は誰だろうかと、思い馳せている。
宇宙からみた、あの綺麗な地球を、季節の無い宇宙で、どう詠むか。
それこそ、俳句史に残る一句になるだろう。
有季、無季どころか、歳時記もへったくれも、超越している宇宙で、俳句。
考えただけで、一寸、放心。

【天候】
曇りのち晴れ。
夕方より、雲多し。