日刊鶴のひとこえ

この鶴のひとこえは、「めっかった群馬」に携わる面々が、日刊(を目指す気持ち)で記事を更新致します。担当者は堀澤、岡安、すーさん、坂口、ぬくいです。この5人が月替わりで担当しています。令和6年度は4月(ぬ)5月(岡)6月(す)7月(堀)8月(坂)9月(ぬ)10月(岡)11月(す)12月(堀)1月(坂)2月(ぬ)3月(岡)の順です。

1723声 ボールペン放浪顛末

2012年09月23日

木工作家の平井氏と料理家の堀澤氏。
この同級生コンビが、堀澤氏が店主をつとめる「ほのじ」において、
今日まで二人展を開催している。

昨晩はその交流会に参加し、当然、千鳥足で終電に乗り込むと言う、
コースを辿ることになった。
最寄りの新前橋駅に着いて、すこし夜風に当たろうと思い、
ふらふらと駅前の噴水広場のベンチに向かった。

思えば、伊勢崎へと向かう往路の時、電車の接続が悪く、
夕方のこの噴水広場で、30分ほど枯れた噴水を眺めていた。
その後、何時間か経ったいま、酔眼朦朧として、
やはりこの枯れた噴水を眺めている。
「あっ」と思い、バッグから句帖を取り出して、
一句書きとめようとして、気が付いた。
「このボールペン、夕方にこのベンチで拾ったヤツだ」

夕方にこの同じベンチで、ひとつボールペンを拾った。
拾ってはみたものの、何だか得体が知れぬし、書けるかもどうかあやしい。
しかし、こんな地べたで風雨にさらされては、このペンも浮かばれぬだろうから、
駅まで連れて行ってやろう。
駅に着いたら、まぁ、時刻表の脇に置いておくか、ゴミ箱に入れるか。
そんなことを考えつつ、ポケットに入れた。
それが、すっかり忘れてしまい、また元のこのベンチまで戻って来てしまったのである。
私は、むやみにこのボールペンを連れまわしただけだった。
なんだか、得体の知れぬ感情が込み上げて来て、一夜明けたいま。
自分の机の上のペン差しに、ささっている。

【天候】
終日、雨降り。

1722声 銭湯の玄関

2012年09月22日

「銭湯ナイト」
と言う、銭湯フリークが銭湯フリークに贈る、
銭湯の湯以上に熱いイベントが、毎年、新宿のロフトプラスワンで開催されている。
今年で第8回を数え、私も観覧に行ったり、著作を売らせてもらったり、している。

今年のテーマの一つに、「関東の渋銭湯」と言うのがあり、
私も関東最北端である群馬県の、渋い銭湯を幾つか紹介する運びになっている。
紹介するのに、情報の裏付け、と言うか、より最新の情報のほうが良かろうと思い、
紹介候補の銭湯を当日までに幾つか回ることに決めた。

今日は前橋から、伊勢崎市へと足を伸ばそうと思う。
伊勢崎では夜にほのじに行く予定があるので、丁度良い。
と言っても、今書いている時点で、家から近い前橋の一軒に行って来た。
街の景観は変われど、銭湯の佇まいは変わらない。
佇まいは変わらないが、時の流れは止められない。
その銭湯の玄関には、「9月1日よりしばらく休みます」と手書きの張り紙がしてあった。
主もご高齢である。
体調など崩されたのかと、一抹の不安を覚えながら、玄関を後にした。

【天候】
終日、快晴。

1721声 首だけのジョン

2012年09月21日

秋の彼岸である。
それに合わせるように、一挙に秋の気配が訪れた。
夕方、自転車走っていると、半袖ではもう寒いくらいであった。
そうなると、そろそろ、畦道では彼岸花が咲くころである。

宵闇が訪れて、暗がりの田圃の畦道。
虫時雨の中を、特にどこに行くでもなく、気分転換のため、自転車で走っていた。
遠くの夜景から、田圃に目を移して、「ぎょっ」とした。
「なななな、なまくび」
そう、紛れもなく生首なのである。

ぼさぼさの髪、精気の無い眼、薄汚れた肌。
しかし、みな、よく見れば欧米人のような端正な顔立ちをしている。
これは、もちろん案山子用のマネキンなのであるが、
なにも、首だけをグラスファイバーの棒に刺して、さらし首のようにしなくても。
おかげで、こちとら、心臓が「きゅーっ」となるほど、驚いてしまった。
一番手前のマネキン、仮に「ジョン」とするが、この首だけのジョンは、
往来からくるりと逆を向いていた。
そのまなざしの先には、煌々とショッピングモールの灯が見える。
ジョンはこんな姿になりながらも、
2階、レディースファッションコーナーに残してきた恋人のことを、
考えているのかもしれぬ。

【天候】
終日、曇ったり晴れたり。

1720声 ハッピーアワー

2012年09月20日

「麻布十番」
東京メトロのその駅の、何番出口だったかは、
乗り換えにてんやわんやしていたので定かでない。
兎も角、その出口を出た。
そこから、スマートフォンの画面に出した地図を眺めながら歩く。
今思えば、小型探知機で獲物を探しているようで、甚だ滑稽な姿であるが、
田舎者は必死である。

何度もおなじ辻を通り、ようやく、目的の店を見つけた。
その店の、カウンターの奥に滑り込んで、とりあえず、一杯。
ここはビアバー、つまり、ちょいと質の高い麦酒を提供しているバーなのである。
国内の地ビールが主なのだが、オープン記念として、「パッピーアワー」と銘打って、
特定の時間だけ半額になる。
その時間を目がけ、まだ日も沈まぬうちから一杯やろうと言う魂胆である。

落ち着いて店内を見まわすと、なるほど客筋もひとくせありそうな人ばかりである。
雑誌ライターなのであろうか、タイトな黒パンツを履いた女性は、
先程から写真を撮っては、なにやらメモしている。
自分の右隣の席には、若い女性二人なのだが、会話がネイティブな発音の英語である。
二人とも、注文の際は日本語になるので、日本人である。
左はと言うと、白人系のおっさん二人、かなりできあがっており、声が響いている。
そんな中で私、リュックを懐に置いて、ハイペースで黙々と麦酒を飲んでいる。
酔いも手伝って、注文の時の身ぶりが、欧米人野それのようにそこはかとなく、
大袈裟になっているのが悲しい。

ともあれ、数を飲んだ中でも、和歌山県のナギサビールのペールエールは絶品であった。
国内の美味いエールビールが飲めると、無性にうれしい。

【天候】
曇りのち夕方より雨。

1719声 途中下車のタイミング

2012年09月20日

ひねもす雨降りの一日だったせいか、とても蒸し暑い。
九月も半ばだと言うのに、この熱帯夜にはうんざりしてしまう。

太った。
唐突だが、太ったのである。
去年から比べ、3キロほど太った。

主な理由は見当たらぬが、見たところいま、
机の上にセールで買ったチョココロネと、缶麦酒が一本乗っている。
近所のスーパーの中にあるパン屋は、前日の売れ残りを袋詰めし、
セール品として販売している。
価格はもちろん、概ね半額かそれ以上に安くなる。
麦酒を買うついでに、つい、手が伸びてしまうのである。
麦酒の方も、昨今の「糖質ゼロ」だの「プリン体何%カット」だの、
派手な惹句が踊る、新手の第三の麦酒には一切目もくれず、
「麦酒」を買うことに決めている。

「麦酒っ腹」とは良く言ったもので、実際、麦酒っ腹を切符に、
こんなにも簡単に、「おっさん」世界へと続く列車に乗車できるとは思わなかった。
それは、どこで乗り換えたかもわからぬほどで、気付いたら、
その車内にどっかり腰を下ろしていた。
なんとか、途中下車できぬものかと一駅また一駅とやり過し、
椅子に深く腰かけつつも、企んでいる。

【天候】
終日、雨。

1718声 野分

2012年09月18日

週末に九州をかすめていった、台風の余波。
つまり、野分が時折、強く吹く一日だった。
いま、夜の窓を開けていても、この野分によって、
机の上に散乱している書類などが、更に床に散乱し、
もはや収集がつかぬ事態になっている。

不精な性格が災いし、封筒など届くと、
その中身の書類を机の上に打ち捨ててしまう癖がついてしまった。
中には、金融機関から届いた「親展」と書かれた封筒や、
払込取扱票などと言う、抜き差しならぬ帳票の類も折り重なっているが、
どうにもケリがつかない。

窓を閉めると、窓枠にしがみく風の、呻きにも似た声が聞こえる。
途端に、秋も深くなっている感がしみじみと湧き出て、
カレンダーに目をやると、九月も後半になっていることに気が付く。
今年の終わりが、はや見えて来たような気がしている。

【天候】
終日、野分あるも快晴。

1717声 けいろうの日

2012年09月17日

今日は敬老の日である。
それなので、「剃刀日記」でも読み返してみようかと思う。

いま、心の中でつっこんだ人とは、どうも話が合いそうである。

【天候】
曇りがちなる晴れ。

1716声 霧の箱根

2012年09月16日

「天下の険」
そう言わしめるだけあって、ぐるぐると峠を登って着いた先にある関所には、
旅人を恐れさせた物々しい資料の数々が展示されていた。

関所はおそろしいが、直ぐ裏に広がる芦ノ湖の眺望はすばらしい。
ひねもす、霧に包まれていてかの富士山はシルエットしか見えなかったが、
静かに行き交う船が霧に消えゆく景色も、また一興であった。
ぽつりぽつりと句を作って、あとはただただ湖に見とれていた。

【天候】
終日、にわか雨あるも晴天。

1715声 漂泊の秋

2012年09月15日

「行楽の秋」
なんて、コピーが刷り込まれていることもあろうが、どうも旅づいて来る。
旅の心と言うよりは漂泊の心、と言う印象である。

巷は、今日から敬老の日を月曜日に置いた三連休。
友人知人たちも、様々な催しで忙しいようである。
私はと言えば、どうにも漂泊。

ここ数年、俳句の合宿で榛名湖に行っているせいか、
湖へ誘われる気持がある。
念願、とまでは行かぬが、この週末、箱根の芦ノ湖へ出掛ける機会を得た。
紅葉にはまだ早かろうが、その分、人出も落ち着いていて良い頃合いかもしれない。
ここで、榛名湖とは違う秋の湖の句が出来たら良いと思っている。

【天候】
終日、快晴。

1714声 秋の動物園

2012年09月14日

9月も半ばに差し掛かって、この頃の風をやっと、
「秋風」と実感できるくらいになった。

吹きおこる秋風鶴をあゆましむ  (波郷)

この句は動物園で出来た句だと、波郷の文で読んだ。
いまでも、「歌詠み」は題材に困ったら動物園に行くと言う。
動物園にはどこかさみしい印象がある。
それは国語の授業で、高村光太郎の「ぼろぼろな駝鳥」を習ってからの印象かも知れない。
文学にも、そして、音楽にも動物園はさみしい題材としてしばしば登場する。

この間、ある俳人が言っていた。
「動物園に行くなら秋か冬だよ」と。
空いている、と言うこともあろうがやはり、
題材としての本質が見出しやすいからだと思う。
しかし、カピバラや猿が目を細くして温泉に浸かっている姿など見ると、
どうも、心がほんわかしてしまって、創作しようなんて気分にならぬ気がする。

【天候】
終日、雲多くも晴れ。

1713声 妙に落ち着く

2012年09月13日

なんだか、寂しいような平穏なような、
複雑ながら妙に落ち着ける時間が、一日の中にある。

それは食事の時。
食事たって私のことだから、勿論、狭っ苦しい定食屋での、ことである。
狭い店内の更に奥のカウンターに押し込められて、
埃っぽい壁を見つめつつ、から揚げなどに齧り付いている時。
妙に落ち着く心持がする。
鰻の寝床のようなラーメン屋で、
油照りした朱色のカウンターに目を落としながら、ラーメンを啜ってる時。
例の心持になる。

「水下さい」
てぇのが、忙しそうな店主に気を使って、結局言えず仕舞いで店を出る。
そして、店のすぐ横の自動販売機に小銭を入れることになっても、
複雑ながら妙に心は落ち着いているのである。

【天候】
終日、晴れ。

1712声 蠱惑エビス

2012年09月12日

まだ、あとひと月もある。
「琥珀エビス」発売までの期間が、である。

毎年、10月より数量限定でこの缶麦酒が全国に流通する。
思い出の中では、コンビニでおでんと一緒にこの缶麦酒を買っている景がある。
おでんにこの重厚な麦酒が合うんだまた、などと、想像しただけで喉が鳴ってしまう。

限られたビアバーなどでは、琥珀エビスの樽生なんてのも飲めるが、
田舎暮らしの身としては、ちょいと非日常的である。
やはり、コンビニでおでんと一緒に美味い麦酒を買えるのが、うれしい。
グラスの中に妖しく揺れるあの琥珀色は、どうにも蠱惑的で、いかん。

【天候】
終日、雲多くも快晴。

1711声 焦燥と駘蕩

2012年09月11日

遠くで雷が鳴っている。
虫の音を雨の音が消してしまった。

今週を出れば、敬老の日、彼岸ときて、秋分の日である。
俳人ならば、19日が子規忌なので、常ならぬ心持がしているであろう。
そして仲秋の名月がきて、いよいよ秋もたけてくる。
そんな事を考えつつ、夜毎、得体の知れぬ焦燥に駆られているが、
茫然としつつ日をおくっている。

欠して月ほめて居る隣かな  几董

蕪村に師事した、高井几董の句である。
「いやぁ、まことの名月」とかなんとか言う声の方へ視線を移すと、
隣に座って夜空を見上げているツレが、欠伸をしながら月を褒めていたんですよ。
と言う句である。
なんだか、円満な、酒でも入って陽気にお月見している印象を受ける。
こんな句に出会うと、すこし、救われような心持になる。
落語的な駘蕩とした空気が醸し出ている。
その「感」はやはり、江戸につながっているのだと思う。

【天候】
曇りのち雷雨。

1710声 夕日の大樹

2012年09月10日

鳴き疲れて翅が荒れてきたのか、窓の外から聞こえる虫の声が、
そこはかとなく、クリアな音色でなくなってきた。

空を覆っていた桐の葉も、そろそろ落葉の準備をはじめる時期である。
季題で言うところの「桐一葉」。
最近は雨が少なく、夕景が綺麗なので、今日はふと、牧水の歌を思い出した。

見てあれば一葉先づ落ちまた落ちぬ何おもふとや夕日の大樹

体言止めが効いていて、堂々としている。
この歌にもあるように、「大きな樹」と言うのは不思議な魅力がある。

【天候】
終日、雲多くも晴れ。

1709声 余韻

2012年09月09日

映画を観た。
館で、ではなくレンタルで借りたアメリカ映画を二本。

評判を知った時から観たいと思っていた「ノーカントリー」と、
「ドラゴンタトゥーの女」が面白ったことを思い出して、
同じフィンチャー監督の「ゾディアック」である。

美味い麦酒は飲んだ後に、ポップの爽やかな香りが鼻腔に残る。
いい映画も然り。
だから、余韻をエンドロールで味わう。
その点、映画館の方が余韻を味わうには良い環境だが、ひとつ。
待ったなし、てぇのが、つらい。
麦酒など調子良く飲んで観ていた日にゃ、大変である。
この二本目の「ゾディアック」は、本編が大雑把に言えば3時間近くある。
麦酒を飲みながら映画館で観ていた人は、さぞかし、酷い目にあったことであろう。

【天候】
終日、曇天。

1708声 秋の麦酒

2012年09月08日

夕方、近所の商店で買い込んだ安物の総菜を広げ、
冷蔵庫の隅に転がっていた古い缶麦酒で一杯やっている。
なんだか、やっていることが学生時分と変わらぬ気もするが、
夜風にあたりながら飲む麦酒も悪くない。

缶麦酒の一本は、ベトナムの333麦酒である。
先月だったか、俳句の仲間の方がベトナムへ旅行に行った際に、
買って来てくれた。
仲間内に、私が麦酒偏愛者だと言うことが植え込まれているので、
たまにこうやってお土産を頂ける。
すっきりしている、悪く言えば薄く感じるが、これは悪く言っているだけなので、
ゴクゴク飲むには良い。
ベトナムで一番のシェアを誇る麦酒である。

麒麟の秋味になれてしまったせいか、
秋には苦くて濃い麦酒が飲みたくなる。
しかしながら、この虫の音と麦酒のマリアージュはなかなかよろしい。

【天候】
朝より曇り、夕方、一時雨。

1707声 秋の反響

2012年09月06日

秋の夜である。
風物が澄んでいるので、宵の景色が綺麗に見える。
雲に映る紫色の夕焼け。
遠くに瞬いている潤んだ夜景。
虫の声も、立秋の頃からは代替わりしているようで、
よりしみじみとした音色になってきた。

部屋の隅に立てかけてあるギターを手にとって、
鳴らしてみると、そこはかとなく鳴りが良い。
アコースティクなので、音の違いはエレキギターより繊細に分かる。
秋の空気を吸った木が、弦の振動をよく反響させているのか、
はたまた、自分の感覚が鋭敏になっているのか。
弦はいつの間にか随分と錆びていたが、自分の腕よりはましなようである。

【天候】
快晴、夕方一時雨。

1706声 コスモスの駅

2012年09月05日

今夜は殊に蒸し暑い。
月光もなんだか濁っていて、虫の声も重たく感じる。
それと関係があるのだろうか、部屋の中に小さな羽虫がやけに多い。
特に、蛍光灯のあたりに狂い飛んでいる。

群馬県山間部にはもう秋の気配が濃く、路肩にコスモスなど揺れていた。
さる俳人の方に聞いたのだが、俳句大会などで選をしていると、
「コスモス」と「無人駅」を取り合わせた句が、毎回多く出て来るらしい。

この二つを織り交ぜた、現代の月並俳句の代表選手のような句を、
俳句初心の頃に作っていたことを思い出した。
ローカル線の夕暮の車窓風景に馴染み深い人間にとっては、
そんな凡句を作りたくなる心境が痛いほどよくわかる。

【天候】
終日、快晴。